よくブロガーが記事のネタとして「本は紙の本で読むべきか電子書籍で読むべきか」という議題を取り上げている。
前々からこの議題について、いつか自分も持論を展開したいと思っていたので、今回はブロガーの端くれとして、この議論に乗っかりたいと思う。
写真は、無印Kindleと、最近読んだノンフィクションでは一番面白かった『おいしい資本主義』。こんな記事を書いておきながら、一応Kindle端末は持っている。
以前書いた『おいしい資本主義』の書評はこちら。
【書評】『おいしい資本主義』――「白いおまんま食えれば上等だ」のメッセージ
結論:今のところは比較するまでもなく、紙一択
まず、のっけからドカンと結論を述べてしまうと、今のところ、本を読むには従来通り紙の本を読むに限る。
こうやって、はじめに結論や主張を述べちゃうのは、あまりブロガーは好まない手法だが(結論を読んだ瞬間にページから離れていくせっかちな読者が多いもんね)、論文なんかでは、何よりもまず結論を述べてから、その後にこの根拠などを述べていくのが、基本とされているので、僕はそれに習って初めに述べておく。その根拠とするものは、いかにつらつらと書いていくので、どうぞお時間があればこの続きも読んでください。
ブロガーが電子書籍を推す理由には、裏事情があり。
僕の印象では、プロブロガーと呼ばれる、ブログだけで食っていることをアピールしている人たちは、電子書籍(AmazonのKindle)を推していることの方が多いと思う。
彼らの電子書籍を勧めるメリットとしては
- 紙の本よりも安い
- 場所を取らない
- 一つのKindle端末やスマホ等に莫大な量の本を入れて持ち歩ける
とまあ、こんな感じだと思う。
ただ、言っちゃあ悪いが、こういう人たちの主張はあんまり間に受けない方がいい。というのも、なんで彼らがしきりに電子書籍を勧めるのかというと、彼らがやっている(僕ももちろんやっている)Amazonのアフィリエイトである、「Amazonアソシエイト」の紹介料が、紙の本が3%に対して、Kindle本が8%なのである。
Amazonアソシエイトの紹介料の事情
例えば、未だにAmazonのランキングで上位に位置する岸見一郎著『嫌われる勇気』をみてみると、紙の本が1620円。Kindle版が1296円。Kindleの方が20%安い。(あくまでも新品と比較して)
ただし本が売れた時の紹介料を見てみると、紙の本は3%なので48.6円。Kindleは8%なので103.68円になる。もちろん紙の紹介料は、新品が購入された場合での金額なので、もしこれが100円や、あろうことか1円の中古本が買われた日には、雀の涙もいいところの紹介料しか得られない。
少し意地悪な言い方になってしまうが、一見電子書籍を勧めるブロガーたちは、親切心で売値が安い方を勧めているようで(たとえそれが本心だとしても)、同時に自分たちの懐に入る率が大きい方を勧めていることになる。
もちろん、わざわざ時間をかけて記事を書き上げ、良書を勧めてくれるのなら、彼らの懐に入る率が多かろうが少なかろうが気にするのもセコい話だ。
とはいえ、あれだけ儲かっている儲かっているとやたらめったらとアピールをしているプロブロガーたちがしきりに、電子書籍(Kindle)を勧めているのを見ていると、どうも懐疑的になってしまう。彼らが少しばかり眉に唾をつけた目で見られても自業自得である。
電子書籍の問題点:まともな本はまだまだ電子化されていない
そもそもの話、僕はまだまだ電子書籍は紙の本と比較対象になれるほど、成熟していないと思っている。その一番の理由が、まだまだまともな本が電子化されていないという点。
電子書籍では論文やレポートは書けない
例えば、僕が卒業論文を書いていた際に参考文献として読んでいた、黒人音楽や、アメリカ公民権運動について書かれた本をAmazonで検索してみると、その殆どが電子化されていない。というか、前にすべての本を調べたがほぼ全滅だった。
つまり、大学の講義でのレポートのために読まれるようなまともな本なんてのは、電子書籍なんてまだまだ無縁の世界なのである。これは、日本の出版社が電子化を渋っているだとか、諸々の原因があるようだが、とりあえず、無いのものは無い。
電子書籍だけを参考文献にして書き上げたレポートというのがあったら、読んでみたいとは思っている。
自炊はせめての思い出を残す手段?
そうすると、一時流行っていた(今もやっている人はやっているのか?)「自炊」と呼ばれる、自分で紙の本を解体して、スキャナーで取り込んで電子化するあれはどうなんだという声があるかもしれない。
ただ、あれは正直そうせざるを得ない人(引越しのためだとか、本に埋もれそうだとか)が止むを得ずやるのだと思うし、実際、自炊した本を読んでいても快適なものでもない。(経験済み)
多分、自炊したら最後、その本は闇の彼方(深いデータの森の中)に紛れ込むだろう。残るは自炊したという満足感のみか。場所をとっていて困っているけども、手放すのは忍びない本なんかは、思い出を残すような意味で電子化しておくと、安心して捨てられるのかもしれない。
電子書籍は安いとは言っても、中古本はもっと安い。
僕は、殆ど新品の本を買わない。しかも最近買った新品の本というのも、夏目漱石やら川端康成だったりする。
とりあえず、著者の印税に全く貢献できていないことは、誠に申し訳なく思っているが、その代わり、最近では読んで面白かった本はこのブログで書評を書いたりして紹介しているので、どうか著者の方々には許して欲しいと思う。
ところで、電子書籍は紙のに比べて安いと仕切りにアピールして、年間の書籍代を○○万円節約できただの騒ぎ立てている人々には、老婆心ながら「中古の本を買えばもっと節約できるのでは?」と言いたくなってしまう。もしくは、図書館で借りてくれば、これまたタダで読めてしまう。
きっと彼らは、他人の手に触られた中古品なんて言語道断という、潔癖性なんだろう。
数少ない、電子書籍で読むことのメリット
さて、ここまで紙の本が電子書籍よりも優れていることを書いてきたが、電子書籍の利点もいくつかはある。
検索機能がある
電子書籍の一番の利点は検索機能があることだろう。
これは、まるでインターネットのキーワード検索をするかのごとく、本の中の単語を検索することができる機能。一冊の本からだけでなく、自分のライブラリー全体からも検索することが可能だ。
卒業論文を書いていた時、もしこの検索機能が使えたらどんなに楽だっただろうかと思った。というのも、例えば以下のような
一九六三年は、戦後黒人解放運動における頂点であり、その歴史に最も輝かしい一頁を刻み込んだ年である。
といった記述を、論文に引用したいと思った場合。
なんとなくその記述の意味合いを覚えていても、どの本に書かれていたかなんて覚えていることなんて殆どないので、なんとなく見当をつけて手当たり次第、何冊もの本からページを漁るしかなかった。これはなかなか骨の折れる作業だった。(結局引用するのを諦めたものもあり)
だから、これが電子書籍の検索機能が使えたら、どんなに楽だっただろうかと思ったのは確かだ。とはいえ、機械的な検索機能の仕組みゆえ、例えば上の一文だと「1963年 公民権運動」という、微妙に語句が異なるキーワードだと引っかからないし、いかにも人間味のある勘頼りの「アナログ検索」と結局は五分五分かもしれない。
なお、上記の引用した文章は、本田創造『アメリカ黒人の歴史 新版』岩波書店、1991年、207頁より。
アメリカ黒人について論じた大名著だが、言わずもがな、電子書籍化はされていない。
洋書に限っては、電子書籍の選択肢もあり
ここまで、「本」として比較の対象にしてきたのは、あくまで本ブログの大部分の読者が読んでいるであろう、日本語の本についてだ。そして、洋書(外国語文献全般)に限っては、僕は電子書籍という選択肢も、かなりありだと思っている。
というのも、日本語の本に比べて、洋書になると、多くの本が電子化されているし、さらに割引率も日本の本の場合よりも、もっと大きい。
例えば、こちらのピーター・ギュラルニック(Peter Guralnick)の”Dream Googie”というサム・クックについて取り扱った本だと、ペーパーバック版が2053円に対し、Kindle版が780円。……うーん安いなあ。欲しくなってしまう。
それに洋書の場合は、なかなかそんじゃそこらのブックオフなんかでお目当ての本を探すのも至難の業だろうし、電子書籍でサクッと買ってしまうのも賢いとは思っている。また、Kindleについている辞書機能が洋書を読む際には、かなり便利で助かるというのもある。
ちなみに、洋書の電子書籍だと、結構取り扱っている会社ごと(AmazonのKindleや楽天のkobo、Google Booksなど)によって、本の値段もまちまちなので、買う際は幾つか比較してみて欲しい。
終わりに 現況では、本を読むならまだまだ紙一択
というわけであれこれ書いてきたが、初めに結論を述べた通り現況では、(日本語の)本を読むのなら、まだまだ紙の本に限ると僕は思っている。
もちろん、海外に住んでいて、日本の本がなかなか手に入りにくい状況の人などにとっては、電子書籍というものはとてもありがたい存在であるとは思う。しかし、日本に住んでいて、かつ自分の家(部屋)を持っている人の場合は……うーん、電子書籍をわざわざ読む利点もあんまりないんじゃないかなというのが本音だ。
まだまだ日本の場合、電子書籍は紙の本の下位互換の媒体でしかない。そもそも、新しいサービスはコンテンツが貧弱だ。映画好きがストリーミングサービスによって配信されている作品程度では、満足できないのと等しく、読書好きにとって、電子書籍化されている書籍数は満足を得られるものではない。
おそらく、今の所日本の電子書籍で最も質の高い本は、青空文庫の作品だと思う。僕も何冊も読んだ。ただ、やっぱり、どうせこれらの名作を読むのなら、せめて数百円出して、新潮文庫でも買ってきて読んだ方が、読書体験的にいいなと思って、結局最近ではKindleでは読まなくなってきた。
やっぱり、紙の本の手触りだとか、紙やインクの匂いだとか、風に吹かれてページがパラパラとめくられてしまう、ああいった体験もまた、読書の中の一部なんだろうなと思っている。
まあ、好みですね、完全に。だから別に電子書籍を読むことを批判はしない。電子書籍が好きならそれで何も文句はない。ただし、やたらめたら電子書籍を推奨するネットの人間に対しては、多少眉唾の目で見ているのは事実だ。
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