音を出さないライブハウスは実現可能か——サイレントフェスのアイデアは生演奏に生かせるか

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DJのイメージ画像音楽

ちょっと前の朝日新聞の夕刊で、「騒音を出さないディスコ」というのを取り上げた記事をたまたま目にした。

その騒音を出さないディスコ(クラブじゃなくて、ディスコというのが何だか古臭くて良い)とは、Bluetoothヘッドフォンを利用した仕組みで、DJが流した音楽を、Bluetoothで直接オーディエンスのヘッドフォンに送るというもの。端からすると、全くの無音状態らしい。どうやら、サイレント・フェスというようだ。

保守的な自分は、第一にその記事を読んで、
「気持ちわりぃ」

だが、待てよと次の瞬間考えた。ひとまず、自分の美学は置いておき、この技術をライブハウスに活かせないだろうかと考えた。PAでのメインスピーカーの代わりに、オーディエンスのBluetoothヘッドフォンに、直接音を送れば、騒音問題をクリアできて、結果的に今までは周りの住宅環境などで厳しかった場所でも、ライブができるんじゃないか?

なお、例の記事は覚えているキーワードを元に検索したら、朝日新聞デジタルでも閲覧できた。ただし、会員登録をしなくては、最後まで読めない様子。
「銭湯がディスコに変身? サイレントフェス、じわり拡大」
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レイテンシーの問題

生演奏を、Bluetoothで届ける際に一番の問題は、レイテンシー(音の遅延)。僕は家にBluetoothの音響機材がないので、正直わからないのだけども、どうやら、Bluetoothの音響機器というのはレイテンシーの問題がつきまとうようだ。だから、BluetoothヘッドフォンやBluetoothスピーカーで、ただ単にスマホに入っている音楽を再生するならよくても、YouTubeで動画を観るだとか、スマホゲームをやる場合には、このレイテンシーが気持ち悪いんだとか。まあ、そういう時くらい正直に有線でやれよと思うけど。

Bluetoothのコーデック(規格)にも幾つかあって、最近の上位機種なんかに取り入れられているaptXというコーデックなら、かなりの低遅延だそうだ。とはいえ、あくまで低遅延。デジタルというのは、処理時間を限りなくゼロに近づけられても、その特性上ゼロにはできない。だから、僕のようにどうしてもデジタルのアンプシミュレーターが気持ち悪くて使えない人間もいるわけだし。

きっと、実際にやってみると、どんなに低遅延のBluetooth機器を使ったとしても、生音とヘッドフォンの音が重なって、まるでショートディレイをかけた時のような、変な音のダブり感があるだろうな。

とある、Bluetoothヘッドフォンのレビューに、「29msという驚異の低遅延云々」と書かれていた。29msってアンタ、まさにショートディレイでダブリング感を出すときの設定だよ。

圧縮の音をあえて聴きたいか

レイテンシーの問題の時点で、ほぼ現実的には厳しいことが判明したのだけれども、ついでに思いつく他の問題点も書いてみよう。

まずは、音質の問題。やっぱりBluetoothは、音を飛ばす段階で圧縮をかけているわけで、音の劣化は避けられない。そうすると、録音物では削り落とさせれてしまう超高音域や、ゾクゾクするような低音が聴けるのが生演奏の魅力なのに、Bluetoothの音質だと、そのライブの良さが全く堪能できない。と言うよりも、むしろあえて劣化させることになる。まあ、最近じゃあそんなに音質のことをあれこれいう人も少ないのかもしれないけど。

そして、いくらPAスピーカーの音を無音化したところで、生音は当たり前だが通常通り生じる。ドラムなどは、そもそも諦めたとしても、管楽器なんかだって、結構うるさい。最低限ボーカリストが、騒音問題なんぞいうつまらないことを考えないで、のびのびと歌える環境となると、やっぱりその辺のビルの一室程度じゃあ厳しそうだ。

もし徹底したサイレント環境でやるなら、エレキギターにエレキベース、キーボード、電子ドラムといった組み合わせでインスト物なら可能か。もちろん、ギターやベースはラインで音作りして。(ブッカー・T&ザ・MG’sのグリーン・オニオン程度なら演奏できるかな)

まあそもそも、そういう小規模な環境なら、そもそもの話、PAなんて通さないで生でやればいいんだけど。(現に弾き語り向けで、そういうお店は沢山ある)

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そもそも、みんなBluetoothヘッドフォン持ってないじゃん

iPhone7でイヤフォンジャックが廃止されたが、実際のところほとんどの人はLightningジャックに変換プラグを差して、有線イヤフォンを使っている気がする。そう、だから日本には(世界的にも?)、まだまだBluetoothオーディオが浸透するのは先だと思う。

つまり、何が言いたいかというと、会場側が一から全員分のBluetoothヘッドフォン(しかもそこそこ高性能なやつ)を用意しなければならない! いやはや、一体いくらかかるんだろうね。

終わりに

サイレントフェスの存在を知って、それをライブハウスに応用できないか考えてみた。まあ、現実的にはかなり厳しいと思うし、そこまでしてライブをやりたい人もあんまりいないと思う。なんせ、遅延が一番のネックだろう。

ただ、実際のところライブでは、アーティストが実際に生で歌って(演奏して)いる姿をみるだけで満足な人もいると思うので、そういう人にとってはBluetoothでも何でも良いのかもしれないな。——いや待てよ。武道館なんていう、あんな最低な音響環境の会場にうん万円とか払ってポール・マッカートニーやローリング・ストーンズを観に行くくらいだから、Bluetoothだって満足してくれたりして。そのうち本当に実現したりしてね。でも気持ち悪いだろうなあ、一万人越えのヘッドフォン集団ってのも。

ちなみに、あれこれ考えているうちに、「そもそも有線ヘッドフォンならもっと簡単じゃん」とも考えた。でも、それならはるか数十年前から実現可能だっただろうに、行われていないということは、やっぱり魅力がないってことだな。第一、有線だとおとなしく椅子に座って聴いてなきゃいけないもんね。サイレント・フェスの動画のように踊ったものなら、線につまずいて転んじゃって、危ないもん。

コメント

  1. まこすけ より:

    サイレントライブはBluetoothじゃないっすよ。
    いまのは2.4GHz帯を使うWiFiか、ストリートライブならFMトランスミッターを使うもの。
    そもそも、Bluetoothで1対Nの通信を行なう「Auracast」は2022末でまだ製品も出ていない。

    もっとも、現状でもレイテンシはあるので、実音の出る楽器(とくに生ドラム)は苦しいですが。

    Bluetooth Auracastは、駅の構内放送や、デジタルサイネージ向けに、必ず実用になるコア技術です。

    これが一般化すれば、ライブハウスや生音楽器の存在意義は大幅に下がるかもしれません。
    それほどインパクトあるように思います。

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