一年ほど前に「WELQ問題」ってのが話題になっていたけれどご存知だろうか。きっと自分でブログを書いたり、他人の個人ブログを読んだりするようなネットの世界の人間にとっては「何言ってんだよ」といった風に、嫌というほど知りまくりだろう。だけど、ネットの世界には疎い一般の人には「なんだっけ?」もしくは「なんすか」って感じじゃないかなと思う。僕はテレビを全く観ないので、騒がれていた当時にお茶の間ではどのように取り上げられていたのかは知らないけど。
WELQ問題についておさらい
せっかくなのでWELQ問題について軽く説明しておこう。WELQとは大手企業のDeNAが公開していた医療情報に特化していたサイト。僕は見たことがなかったけど、無料で医療情報を得ることができたので多くの人が重宝していたらしい。
ところが、このWELQに書かれていた情報というのが、どれも他のサイトからパクってきた内容だったり、「肩が凝るのは幽霊が原因かも⁈」と言った信憑性に欠けるトンデモ記事ばかりだったので問題になり、最終的にDeNAはサイトを非公開にし、謝罪会見をしたというわけ。当時DeNAはWELQの他にもたくさんのトンデモパクリサイトを運営していて、WELQが問題になった後は、後述するMERYを含めた十サイトを非公開にしたとのことだ。
当時は、大手企業のDeNAが運営していたサイトが大きく問題視されたもんだから、その手のサイトを運営していた他の会社も問題視されるのを恐れて自主的に自社のサイトを閉鎖したりと、裏では色々とあったようだ。
WELQのことをずっと書いていても仕方がないのでこのくらいにするが、とりあえずWELQ問題が大きく騒がれていた当時は「大手企業なのに!」「メディアの品格」「広告至上主義の成れの果て」だの、いろいろな声がネット越しに聞こえた。
MERY復活
さて、この記事を書いている一ヶ月ほど前に「MERY復活」というニュースが流れてきたのをよく覚えている。これまた僕は見たことはなかったけど、MERYとは前述したDeNAが運営していた女子向け(多分十代後半から二十代半ばくらいを対象)のメディアサイトのようだ。御多分に洩れずここも他のサイトからせっせとパクってきては自サイトの記事に仕立て上げていたパクリサイトだったとのこと。WELQが問題となった後、MERYも非公開状態になっていたが、先月(2017年8月3日)になって、そのMERYが小学館と手を組んで新たなメディアとして復活すると発表された。
女子高生社長の寝言
そのMERY復活の話が発表された日、Twitterで「MERY復活」と検索してみたんだけど、こいつがまたたまげた。出てくるのは「MERY復活嬉しすぎる!」といったオシャレ系女子の喜びツイートの嵐……。極め付けが、「女子高生社長」として少し前に取り上げられていた例の彼女の「おじさんたちは怒っているけど女の子たちには微塵も届いてないぞ! かわいいは正義!」といったようなツイート……。
百歩譲って一般人として生きる女子高生・女子大生の発言は、まあ良いとしても、JK社長だの呼ばれて世に出ていた人間の発言がこれじゃあ、日本のネットリテラシーはお先真っ暗である。救いようがない。後で知ったことには、どうやら彼女の会社が公開していたサイトが、はてな社のものからCSS(サイトを構成するプログラムの一種、といえばまあ間違いはないと思う)を丸パクリしていて以前問題になったのだとか。パクリで一度問題を起こしておきながらこういうことを自らTwitter上で放言しちゃうんだから、よっぽどパクリ行為に対しての意識が低いんだろう。
気づけば小さなパクリをみんなやっている
さてここまで読んだ読者の方の中には、こう思う方もいるかもしれない。WELQにしろMERYにしろ対岸の火事。パクっていた奴も、そのパクリサイトを何の問題とも感じずに見ていたネットリテラシーの低い奴もどっちも俺・私の知ったことじゃない。
……ではないんだなこれが。というのはWELQやMERYほど程度の悪い次元じゃなくても、身の回りの人間だって小さなパクリ・著作権無視を無意識レベルでやってしまっている。これ、気づいてしまったのだ。
ファイル1:YouTuberの動画を保存してTwitterで投稿
前にTwitterで相互フォローしているそこそこ有名(?)なアマチュアバンドのギタリスト女子が、「この動画はヤバいwww」と言って海外の楽器系YouTuberの動画を自分のツイートとして貼り付けていたのだ。正直に言って「はあ?」である。単純にYouTubeのURLをリンクとして貼ってシェアするばいいのに、なんでわざわざ動画を保存して自分のメディア欄に載せるんだっつーの。本人に悪気はなくて、単純にみんなに観せたいだけなんだろうけど。
ファイル2:他サイトの透かし入り画像をTwitterで投稿
もう一つの事例はもっと身近で、高校の後輩がやっていたこと。彼もまたTwitterで「〇〇の画像(とあるジャンルの建物)って好きだわー」とどこからかせっせと集めてきただろう画像を貼り付けてツイートしていた。まあここまではあまりにありふれた行いで、もはや注目するまでもない。だが彼のその時のツイートが際立っていたのは貼り付けていた数枚の写真の中に、思いっきしサイトURLの透かしが入った一枚が入っていたのだ。なんというか、パクリ防止のために入れられている透かしですら、もはやそういう概念がない人にとっては全くの無意味なんだなと、ひしひしと感じてしまった。
ちなみにだが今あげた事例の二人はどちらも自分のバンドでプロを目指しているような人たち。もし彼らが晴れてプロデビューした暁には嫌という程パクリだとかを意識しなきゃいけないだろうに、大丈夫なんだろうか。
パクリに対する新しい教育を
となるとだ。もはやここまでパクリという行為がネット上に横行していて、誰もが無自覚に行っている現状。どうすればいいのか。
諦めてネット上ではパクリOKと法律で決めちゃう? きっと誰もネットでオリジナルのものを発表したがらなくなっちゃうね。……うーん、やっぱり教育の場で早々にネットに対するリテラシーというものを叩き込んでしまうしかないと思う。大学生になってからじゃ遅い。今時中学生はもちろん、中には小学生だってツイッターのアカウントくらい持っているんでしょう。だから小学校の頃から、常々言い聞かせていくのが賢明だと思う。
とはいえ現実的にはこれ、かなり難しいだろうなとも思っている。理由は何か。ズバリ教員側にこういったネットに対する観念を持っている人間がまずいないからだ。先日書評にもあげた『SNSって面白いの? 何が便利で、何が怖いのか』という本の中で、ある大学教授がこんなようなことを言っていた。
デジタル時代の功罪として簡単にコピーアンドペーストができるようになった。だが、本から情報を得ていた昔の学生が偉かったかというとそんなことはない。昔の学生は本を丸写ししてレポートを仕上げていた。
草野真一『SNSって面白いの? 何が便利で、何が怖いのか』講談社、2015年、244 – 245頁。
結局のところ、大部分の学生は昔は本を写し、今はネットをコピペしてと、やっていることは大して変わってないようだ。だけど大きく変わったのは、昔は剽窃をやっていた学生の書いたものなんて、所詮大学を超えて世にでることはなかったのに、今じゃあバンバン世に出ている。Twitterを通して著作権無視の画像が投稿され、しまいにはWELQのようなサイトにまでできて、みんな問題意識を感じずに読んでいる始末。
好きなアイドルの写真を切り抜いて下敷きに挟んでいた時代とは、自己表現の方法も、行き着く先も大きく違うということを、教員側がまず認識しないとね。日本のネット社会に秩序がもたらされるのは、まだまだ時間がかかりそうだ。
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