ギターヒーローなんてもういない——憧れのギタリスト不在の現代

音楽コラム
ステージに立つギタリスト

Char、スラッシュ(Slash)、ジミー・ペイジ(Jimmy Page)、エドワード・ヴァン・ヘイレン(Edward Van Halen)……。

ギターを弾く人間にとって憧れのギターヒーロー達。ギターを弾く人間ならば誰しも憧れのギタリストがいて、彼らのようになってやると毎日練習に励んできただろう。そんな私も高校時代、ジョー・ペリー(Joe Perry)とジェフ・ベック(Jeff Beck)に憧れを抱き、彼らと同じステージに立つのを夢にギターを弾いてきた。

ジョー・ペリーに憧れていた私は、初めてギターを買った日の夜に、エアロスミス(Aerosmith)の「Dream On」をコピーした事を今でも思い出す。また、その1年後にはジェフ・ベックのヴィブラートの揺れ幅を自身のテクニックに取り入れるために、CDに合わせて揺れ幅が同じになるようにコピーしていた。

しかし、最近では軽音楽アニメに憧れてギターを購入したり、動画サイトで演奏を投稿している人を見てギターを始める人が出てきているそうだ。つまり、ギターを始めたからにはギターヒーローに憧れるという図式が崩れてきているのだ。

なぜギターヒーローは誕生しないのか?

現代の3大ギタリスト。左からジョン・フルシアンテ/ジョン・メイヤー/デレク・トラックス。

みんなが憧れてきたギターヒーロー達は、1970年代〜1990年代頃にデビューして、私達に影響を与えてきた過去の存在。いわゆる新3大ギタリストと呼ばれる、ジョン・メイヤー(John Mayer)、デレク・トラックス(Derek Trucks)、ジョン・フルシアンテ(John Frusciante)ですら、ベテランと呼ばれる領域に達している。

一方、若手ギタリストの中で誰もが憧れを抱くギターヒーローと呼ばれる人は生まれていない。ギターヒーローと呼ばれる人に憧れて、ギターを手にする時代は終わってしまうのだろうか?

現代のギターヒーローが不在な理由

現代で、新しいギターヒーローが生まれない理由は以下の3点だと考えられる。

  • 新奇性の希薄化
  • 動画サイトの登場
  • ギターの立ち位置の変化

新奇性の希薄化

ギターの演奏そのものに対する新奇性が希薄になってしまったことが原因の1つだ。

ギターでできる奏法は、ここ数十年でやり尽くされてしまった。かつてジミヘンこと、ジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)が登場した時には、当時の人々は大胆なエフェクターの使い方や常識はずれのアーミングに驚いた。しかし、今どきエフェクター一つを踏んだ程度で驚かれることなど、ありえないだろう。

また、エディ・ヴァン・ヘイレンが世に広めたライトハンド奏法(タッピング奏法)もそれまでのギターの常識を覆すような新奇性に満ちた奏法だった。YouTubeのような動画サイトが無かった当時、ライトハンド奏法を初めて耳で聴いた人々はどうやって演奏しているのかわからず驚いたことだろう。

しかし、現在ではそんなエディのライトハンドよりも遥かに高度なテクニック——ギタースラップ、スウィープ奏法など——でさえ、全く新奇性がなくなってしまった。ギターという楽器が成熟したと捉えることができる一方、ギタリスト同士の差別化というものが奏法では図られなくなった。

動画サイトの登場

インターネットの発展に伴い動画サイトが一般に普及したことも原因の一つだ。

かつては、アマチュアギタリストがどんだけ上手にギターが弾けたところで、世間に広まることはまずなかった。ライブハウスで地道に活動したり、バンドコンテストに出場することで初めて大衆に自分の演奏をプロモーションできた。

しかし、現代ではYouTubeをはじめとする動画サイトの普及により、誰でも自身の演奏を世の中の人に見てもらうことが可能になった。

その結果、いわゆるプロとして活躍しているギタリストに憧れを持たないかわりに、ネット上で人気なアマチュアギタリストに憧れ、ギターを練習する若者でさえ出てきた。

ネットギタリストの先駆けとして有名なKURIKINTON FOX氏。

ギターの立ち位置の変化

ここ最近のバンドにおけるギターの立ち位置(役割)が変化したことも原因の一つだ。

かつて、ロックバンドにおけるギタリストの役割は伴奏もしつつ、ギターソロで主役としてフューチャーされる存在だった。つまり、バンド内ではボーカルと並んで目立つ存在であった。

しかし、最近ではギター・ソロのない楽曲を演奏しているバンドも多く見受けられる。ギターソロというものがかつてほど重視されなくなったのである。

結果、ギタリストに特別な憧れを抱く若者が減ってきているのではないだろうか。

ギターヒーロー=テクニカルなギタリストではない

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とはいえ、全くギターヒーローがいなくなるのは考えられないだろう。

先程、ギターヒーローが生まれない理由として”新奇性の希薄化”や”ギターの役割の変化”を述べたが、必ずしも新奇的であったり、技術面が優れているからギターヒーローになるわけではないと断言する。

ジョー・ペリーやスラッシュは決して速弾きが優れているわけでも、新奇性のある演奏をするわけでもない。

しかし、ギターヒーローとして現代も崇拝される。

その理由は、単純にギターを持ってステージに立つ姿がロック然としているからこそ、ヒーローとなったのだろう。テクニックだけがギタリストを評価する基準ではない以上、ギターヒーローが完全にいなくなることは考えられない。

終わりに

これから先、ギターヒーローが全くいなくなることは先に述べたように考えられない。しかし、新しい世代のギタリストが、ギターヒーローとして世の中でフューチャーされる割合はどんどん下がっていくだろう。

ギターという楽器の成熟、インターネットなどテクノロジーの発展による音楽を取り巻く状況の変化、バンドでのギターの立ち位置に対して、うまく立ち回れるものがギターヒーローとして崇められていくはずだ。

一方、こうした時代の変化に気づいていないギタリストは大勢の前で脚光を浴びることもなく、ギターヒーローとしての人気を得ることは無くなるのではないだろうか。

そんな中でも、誰も想像できない新たなギターの可能性を生み出して、我々を感動させてくれるギターヒーローが登場したら嬉しく思う。

高校時代の私がJoe PerryやJeff Beckのようになりたいと夢を抱いてギターをひたすら練習したように、近い将来、若手ギタリストがギターヒーローとしてインフルエンサーとなって欲しい。

ライター:モリダイキ

横浜生まれ、横浜育ち。ギターとお酒が大好きなエンジニアです。好きな音楽は60s-80sのロック、歌謡曲、アイドルソングなど。

※この記事は、以前筆者が運営していた音楽サイト「バンド部ねっと」から移行した記事となります。