アルバム紹介・解説|クイーン『ザ・ミラクル』——3年ぶりとなった13thアルバムは力強さみなぎるQUEENが戻ってきた!

音楽レビュー
クイーン13th『ザ・ミラクル』ジャケット

クイーンはアルバム『カインド・オブ・マジック』のリリースと「マジック・ツアー」以降活動を休止し、各メンバーはソロ活動に勤しんでいたが、1988年に各メンバーが再結集し、『カインド・オブ・マジック』から3年ぶりの1989年にリリースされたのが『ザ・ミラクル』である。

このアルバムでクイーンは活気あふれる力強い演奏を聴かせていて、クイーンの健在ぶりを印象づけた。しかし、このアルバム制作中にフレディ・マーキュリーは自身がHIVに感染していることをメンバーに告げたと言われている。

Queen – The Miracle|各曲解説

アルバム基本情報

リリース日時 1989年5月22日(英国)
ジャンル ハードロック
収録時間 41分22秒
レーベル パーラフォン

パーティ – Party(フレディ・マーキュリー/ブライアン・メイ/ジョン・ディーコン)

ロジャー・テイラーの気合いが入ったドラムで幕を開けるこのナンバーでは、終始、フレディ・マーキュリーの力強い歌声が響き渡っている。コーラスもフレディ・マーキュリーに引っ張られるように気合い十分である。

また、ブライアン・メイのギターも鮮烈で、アルバム『ザ・ミラクル』の1曲目を飾るに相応しいロック・ナンバーだ。

カショーギの船 – Khashoggi’s Ship(フレディ・マーキュリー)

フレディ・マーキュリーの迫力のヴォーカルとブライアン・メイの迫力のギターのバトルのようなこのナンバーは、聴き応え十分である。フレディ・マーキュリーもブライアン・メイも持てる力を存分に出し、その緊張感は、聴くものをしびれさせる。

フレディ・マーキュリーとブライアン・メイはお互い挑発するかのように煽り続け、それが終わりまで一分の隙も見せずにやり合うこのナンバーで、しかし、二人とも心の内ではそれを大いに楽しんでいることも分かるのである。バトルのようなやりとりはお互い信頼し合っているからこそ成立するのである。

ザ・ミラクル – The Miracle(フレディ・マーキュリー/ジョン・ディーコン)

転調を繰り返す複雑な構造をしたナンバーで、クイーンならではのナンバーといえる。

一歩間違えれば、散漫なものになってしまうのであるが、そこは百戦錬磨のクイーン、転調することでドラマ性を生み出し、それを自在なコーラスが更にドラマチックに彩り、聖書の記述や世界的な遺跡、また、ジミ・ヘンドリックスなどの有名人など、全て神が創造した”奇跡”としてフレディ・マーキュリーが慈しむように歌い上げている。

アイ・ウォント・イット・オール – I Want It All(ブライアン・メイ)

ブライアン・メイの骨太のギターが冴え渡るこのナンバーでもフレディ・マーキュリーは力強いヴォーカルを聴かせている。「カショーギの船」で聴かせたフレディ・マーキュリーとブライアン・メイのバトルのような競演とは違い、ここではお互いを気遣いながら、それでいてなれ合うことのない演奏を聴かせている。

インビジブル・マン – The Invisible Man(ロジャー・テイラー)

ジョン・ディーコンが演奏するベース・ラインがとても印象深いロジャー・テイラーの手になるロック・ナンバーだ。同名の本から着想を得たと言われていてリード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務めていている。

各メンバーがそれぞれの持ち味を存分に発揮し、流石クイーンといった見事なバンド演奏を繰り広げている。中でもジョン・ディーコンとブライアン・メイの競演するところなど絶品で、息の合った演奏を聴かせている。

ブレイクスルー – Breakthru(フレディ・マーキュリー[イントロ]/ロジャー・テイラー[メイン])

美しいコーラスをバックにフレディ・マーキュリーの絶唱がどこかしらゴスペルの神聖な雰囲気を醸し出すイントロが印象深いこのナンバーは、しかし、ロジャー・テイラーの手になるメインのロック・ナンバーに変わる。

メインではジョン・ディーコンのベース・ラインが独特で、それを軸としてリード・ヴォーカルのフレディ・マーキュリーが変幻自在のヴォーカルを聴かせている。メインの部分はシンプルなロック・ナンバーである。

レイン・マスト・フォール – Rain Must Fall(ジョン・ディーコン[作曲]/フレディ・マーキュリー[作詞])

雨音の様子を表しているのか、これまたジョン・ディーコンのベース・ラインが独特で、それにロジャー・テイラーのドラムが鮮やかな色づけをしている。リード・ヴォーカルは作詞を担当したフレディ・マーキュリーで、小気味よいヴォーカルを聴かせている。

また、ブライアン・メイのギターも冴え渡り、このユニークなナンバーをキリリと締めている。ジョン・ディーコンの発想の豊かさにはこのナンバーを含めて驚かされるばかりで、しゃれた味付けもなされたナンバーとなっている。

スキャンダル – Scandal(ブライアン・メイ)

ギター・サウンドとキーボードを軸に組み立てられたナンバーだ。リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務め、熱唱している。雄大でドラマチックなナンバーで、バンド演奏を背に熱唱するフレディ・マーキュリーのヴォーカルはクイーンの”顔”に相応しく堂々たる歌いっぷりである。

マイ・ベイビー・ダズ・ミー – My Baby Does Me(ジョン・ディーコン/フレディ・マーキュリー)

しっとりとした味わいのナンバーで、ブライアン・メイのギターが情感たっぷりに歌い上げている。

また、このナンバーでもジョン・ディーコンのベースはユニークで、ジョン・ディーコンが大活躍している。大人のロックといったナンバーとなっていて、フレディ・マーキュリーもギターと呼応するように情感豊かなヴォーカルを聴かせている。

素晴らしきロックン・ロール・ライフ – Was It All Worth It(フレディ・マーキュラリー)

ブライアン・メイのギターが時に歌を歌っているかのように、時に超絶技巧の演奏を聴かせていて、このナンバーを大変ドラマチックで壮大なものにしている。

フレディ・マーキュリーの手になるナンバーだけあって、その構造は複雑なのであるが、それを難なく演奏してしまうクイーンというバンドの凄みを十分に思い知らされるナンバーでもある。

まとめ

クレジットでは全曲クイーン作となっているが、現在では誰が曲作りに関わっていたのか分かっているので、それを優先した。しかし、自身がHIVに感染していることを知ったフレディ・マーキュリーの胸に去来したものは何だったのだろうか。

当時は、HIVに感染するとエイズを発症し、ほとんどの人が死に至る病であったので、フレディ・マーキュリーの思いを慮ってみると絶望していたのではないかと想像される。ところが、この『ザ・ミラクル』は全編力強さにみなぎったナンバーが目白押しで、フレディ・マーキュリーのヴォーカルはこれまでよりも一層力が入った聴き応え十分なヴォーカルを聴かせている。

ライター:積緋露雪

1964年生まれ。栃木県在住。自費出版で小説『審問官』シリーズを第三章まで出版。普段はフリーのライターとして活動中。嘗ての角川書店の音楽雑誌「CDで~た」の執筆・編集・企画を担当という経歴の持ち主。

※この記事は、以前筆者が運営していた音楽サイト「バンド部ねっと」から移行した記事となります。