アルバム紹介・解説|クイーン『カインド・オブ・マジック』——チームワークも熟達の域に達した12thアルバム!
この12thアルバム『カインド・オブ・マジック』に収録されている曲のいくつかは、元々映画「ハイランダー」のサントラ用に作られたナンバーをアルバム用に録音し直して収録されたものである。
なぜ、サントラ盤としてリリースしなかったかというとクイーンはかつて映画「フラッシュ・ゴードン」のサントラ盤をリリースしたが、それは必ずしも成功したといえるものではなかったのである。その轍を踏みたくなく、クイーンはサントラではなくアルバムとしてリリースしたのである。
『カインド・オブ・マジック』のリリースは1986年である。クイーンは、当時、メンバー間の軋轢が取り沙汰されていた。つまり、仲が最悪の状態だったらしいのである。
それがこの『カインド・オブ・マジック』の発表で、その懸念が取り払われ、チームワークも熟達した域に達した聴き応え十分のアルバムを世に問い、全英ナンバーワンを獲得する傑作アルバムを生んだのである。
- Queen – A Kind Of Magic|各曲解説
- アルバム基本情報
- ワン・ヴィジョン – ひとつだけの世界 – One Vision(クイーン)
- カインド・オブ・マジック – A Kind of Magic(ロジャー・テイラー)
- 愛ある日々 – One Year of Love(ジョン・ディーコン)
- 喜びへの道 – Pain is Close to Pleasure(フレディ・マーキュリー/ジョン・ディーコン)
- 心の絆 – Friends Will Be Friends(フレディ・マーキュリー/ジョン・ディーコン)
- リヴ・フォーエヴァー – Who Wants to Live Forever(ブライアン・メイ)
- ギミ・ザ・プライズ – Gimme the Prize(ブライアン・メイ)
- ドント・ルーズ・ユア・ヘッド – Don’t Lose Your Head(ロジャー・テイラー)
- プリンシス・オブ・ザ・ユニヴァース – Princes of the Universe(フレディ・マーキュリー)
- まとめ
Queen – A Kind Of Magic|各曲解説
アルバム基本情報
リリース日時 | 1986年6月3日(英国) |
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ジャンル | ハードロック |
収録時間 | 40分42秒(LP・カセット) |
レーベル | EMI |
ワン・ヴィジョン – ひとつだけの世界 – One Vision(クイーン)
何かが胎動するかのようなエフェクト処理された人間の声で幕を開けるこの楽曲はクイーンの4人のメンバーの合作である。それぞれのメンバーの聴かせどころがあり、リード・ヴォーカルのフレディ・マーキュリーの高らかに「ワン・ヴィジョン」と歌い上げることで、クイーンのメンバー4人がお互いに「ワン・ヴィジョン」を共有していることを宣言しているのだ。
クイーンの4人のメンバーに関して不仲説が流れていたが、この曲を聴く限り、それは否定されたとみていいだろう。4人のメンバーの合作というところが、このナンバーの肝で、この一曲を聴いて不仲説にやきもきしていたファンは当時、胸をなで下ろしたことだと思う。
カインド・オブ・マジック – A Kind of Magic(ロジャー・テイラー)
ロジャー・テイラーもこの頃になると大分こなれてきたと見え、この楽曲はとてもユニークだ。リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務めている。このアルバムは一説によるとフレディ・マーキュリーとロジャー・テイラーが中心となって作られたと言われている。
このナンバーは指を鳴らしてリズムをとるところがとても効果的で、また、ジョン・ディーコンのベースがユニークな味を出していて、とても面白い楽曲に仕上がっている。この味はロジャー・テイラーにしか出せない軽やかさである。とにかく、楽しく聴けるナンバーだ。
愛ある日々 – One Year of Love(ジョン・ディーコン)
ジョン・ディーコンの手になる渾身のバラード曲をフレディ・マーキュリーが情感たっぷりに聴かせている。やはり、バラードを歌うフレディ・マーキュリーは無敵といえ、サックスとの競演もこのバラード曲に艷やかな彩りを加えて、その切々と心に訴えかけるフレディ・マーキュリーのリード・ヴォーカルは白眉といえる。
喜びへの道 – Pain is Close to Pleasure(フレディ・マーキュリー/ジョン・ディーコン)
フレディ・マーキュリーとジョン・ディーコンの共作曲である。リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務めている。フレディ・マーキュリーは全編ファルセットで歌っていて、それが「Pain is Close to Pleasure(痛みは喜びの近くにある)」と歌うときに聴くものに様々な思いを去来させる。
サウンドは、モータウン・サウンドを少しもったりとさせた音作りがなされていて、これが、フレディ・マーキュリーのファルセットを際立たせているのだ。つまり、フレディ・マーキュリーの馥郁とした香り立つヴォーカルにぴったりのサウンドといえる。
心の絆 – Friends Will Be Friends(フレディ・マーキュリー/ジョン・ディーコン)
このナンバーもフレディ・マーキュリーとジョン・ディーコンの共作曲だ。こちらはブライアン・メイのギターがリリカルに鳴り響くロック・バラードで、リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務めている。
フレディ・マーキュリーは、「友との友情」をフレディ・マーキュリーにしか出せない芳醇な味わいのヴォーカルでこれまた情感たっぷりに歌い上げていて、聴くものの心に染みてくるナンバーである。
リヴ・フォーエヴァー – Who Wants to Live Forever(ブライアン・メイ)
クイーンを代表するブライアン・メイの手になる名曲のひとつである。リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務め、透明感のある美しくドラマチックなバラード・ナンバーをフレディ・マーキュリーが見事という他ないほどに美麗な歌声で更に美しくも感情を込めて絶唱している。流石という他ないナンバーだ。
ギミ・ザ・プライズ – Gimme the Prize(ブライアン・メイ)
ブライアン・メイのギターが炸裂するブライアン・メイの手になるハード・ロック・ナンバーである。それに呼応するようにフレディ・マーキュリーが渾身のヴォーカルを聴かせている。
その音圧の凄まじさには圧倒されっぱなしで、これもまた、クイーンという世界的なバンドならでは可能な演奏であり、やがて、この音の洪水に溺れることが快感になってくる。
ドント・ルーズ・ユア・ヘッド – Don’t Lose Your Head(ロジャー・テイラー)
ロジャー・テイラーのドラムスが冴え渡るロジャー・テイラーの手になるロック・ナンバーだ。打ち込みを取り入れていて、テクノ・ポップ調なアレンジも面白い時代の最先端を走っていたクイーンならではのごった煮サウンドがとても印象に残る。
リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務めていて、フレディ・マーキュリーのそのヴォーカル・テクニックの素晴らしさが一際際立つナンバーでもある。
プリンシス・オブ・ザ・ユニヴァース – Princes of the Universe(フレディ・マーキュリー)
クイーンの底力を見るかのようにメンバー4人が各自伸び伸びと演奏している迫力のハード・ロック・ナンバーである。クイーンの強みであるコーラスも美しく、ラストを飾るにふさわしい雄大な演奏を聴かせている。
また、リード・ヴォーカルのフレディ・マーキュリーも力みなぎる渾身のヴォーカルを聴かせていて、聞き惚れずにはいられない。
まとめ
アルバム『カインド・オブ・マジック』は、フレディ・マーキュリーが元気な状態であった最後のアルバムとなる。この後、フレディ・マーキュリーは体調を崩し、それがHIV感染によるエイズの発症だったことが死の前日にスポークスマンにより発表される。ツアーは1987年の「マジック・ツアー」を最後に行われなくなる。
しかし、まだ、フレディ・マーキュリーの死を語るには早すぎる。この後、クイーンは素晴らしいアルバムをフレディ・マーキュリーが斃(たお)れるまで発表し続けることとなる。この『カインド・オブ・マジック』に収録された「リヴ・フォーエヴァー」のようなとても美しい曲をである。
ライター:積緋露雪
1964年生まれ。栃木県在住。自費出版で小説『審問官』シリーズを第三章まで出版。普段はフリーのライターとして活動中。嘗ての角川書店の音楽雑誌「CDで~た」の執筆・編集・企画を担当という経歴の持ち主。
※この記事は、以前筆者が運営していた音楽サイト「バンド部ねっと」から移行した記事となります。