アルバム紹介・解説|クイーン『フラッシュ・ゴードン』——1980年公開の同名映画の音楽を担当したサントラ盤は聴き応え十分!

音楽レビュー
クイーン9th『フラッシュ・ゴードン』ジャケット

クイーンのスタジオ盤9作目『フラッシュ・ゴードン(原題:Flash Gordon)』は、1980年に公開された、コミックを原作にしたアメリカのSF映画『フラッシュ・ゴードン』のサウンドトラックとなっている。

本作で映画の音楽を初めて手がけた彼らは、全面的にシンセサイザーを取り入れることによって、ある種のコンセプト・アルバムのような作品を作り上げた。

そのコンセプト的な性格が際立つサントラ盤であるが、映画「フラッシュ・ゴードン」を全く知らずに聴いたならば、クイーンがプログレッシヴ・ロックに挑戦したと思えるような異彩を放つ充実の内容の作品である。

この記事の目次
  1. 映画のあらすじ
  2. Queen – Flash Gordon|各曲解説
  3. まとめ

映画のあらすじ

惑星モンゴを支配する悪の皇帝ミンにより、地球は天変地異に襲われ10日以内に月と衝突する人類存亡の危機にあった。何もせずに唯、死を待つだけということに堪えられなかった科学者のハンス・ザーコフは何とか皇帝ミンと和平交渉が行えないかと独自の行動を取る。

ハンスは自前のロケットでモンゴへ向かおうとするのであったが、その場にたまたま飛行機の不時着で居合わせたアメフトのスター選手のフラッシュ・ゴードンと一人旅をしていた女性デイル・アーデンの二人もハンスと同行することになる。

しかし、ミンとは交渉の余地は全くなく、三人は捕らえられ、ミンが極悪非道の暴君であることを思い知らされる。ところが、ミンにデイルが見初められるのだ。そこで、ミンは邪魔なゴードンを処刑し、ハンスを洗脳するように部下に命じる。

ゴードンは毒ガスで処刑されるが、しかし、ゴードンに一目惚れした王女オーラによってゴードンの死は偽装され、ゴードンは密かに生き延びたのである。一方、ハンスも洗脳されたふりをして危機を脱出する。

オーラの導きでミンの支配下から逃れたゴードンは、森の国アーボリアのバリン公やホークマン(鷹人間)軍団を率いるバルタン公を味方にして、デイルと結婚式を挙げようとしていたミンを倒し、モンゴを暴君の支配から解放し、また、地球を救うことにも成功する。そして、モンゴは新しい皇帝にバリンを迎え、バルタンが総司令官になるのであった……。

Queen – Flash Gordon|各曲解説

アルバム基本情報

リリース日時 1980年12月8日(英国)
ジャンル ハードロック
収録時間 35分01秒
レーベル EMI

フラッシュのテーマ – Flash’s Theme(ブライアン・メイ)

メトロノームかのように「タッタッタッタッ」とジョン・ディーコンのベースを軸にリズムを刻み、それが緊迫感をもたらすのである。すると「Flash Ah, Ah」と何かが差し迫っているような緊張感みなぎるクイーンならではの美しくも劇的なコーラスが始まり、誰もが一度は耳にしたことがあるこのナンバーが一瞬の隙を見せることなく展開して行くのである。

と、突然転調し、バラード調の歌声をフレディ・マーキュリーが聴かせ、しかし、それは長く続かずに、また、元の緊迫感あふれるコーラスへと戻る。それにしても、ブライアン・メイのギターは絶品だ。

フラッシュ・ゴードン愛のテーマ – In the Space Capsule(The Love Theme)(ロジャー・テイラー)

マイナー・コードをギターで二度かき鳴らした後にシンセサイザーが宇宙空間を浮遊しているような効果音を奏でる。原題に「In the Space Capsule」とあるようにこのナンバーは一面では宇宙空間を飛翔するロケットを表現していて、まさにクイーンはシンセサイザーで見事にそれを表現している。

ミン皇帝のテーマ – Ming’s Theme(In the Court of Ming the Merciless)(フレディ・マーキュリー)

シンセサイザーでのビーム音のような音が皇帝ミンの無慈悲さを際立たせることになっている。また、突然のパイプオルガンのようなシンセサイザーの音が残酷なイメージをかき立てる。

ザ・リング – The Ring(Hypnotic Seduction of Deal)(フレディ・マーキュリー)

シンセサイザーがミステリアスな音を奏で、フレディ・マーキュリーならではの凝った旋律が神秘性を更に増幅させる。

フットボール・ファイト – Football Fight(フレディ・マーキュリー)

この曲もシンセサイザーが使われているが、前曲とは打って変わってシンセサイザーはポップなビートを刻む。題名通り、フットボールの試合を見ているかのようなイメージをかき立てる音に仕上がっている。

夜の独房 – In the Death Cell(Love Theme Reprise)(ロジャー・テイラー)

これまた、シンセサイザーがミステリアスな旋律を奏でる。時にブライアン・イーノのアンビエント・ミュージック(環境音楽)をも彷彿とさせるナンバーだ。

フラッシュの処刑 – Execution of Flash(ジョン・ディーコン)

ギターとシンセサイザーを用いてドラマチックにも厳粛な音作りがなされている。ジョン・ディーコンの手になるナンバーだが、とても印象的である。

ザ・キス – The Kiss(Aura Resurrects Flash)(フレディ・マーキュリー)

女声のソプラノがとても美しく、また、とても劇的なナンバーで、一つの主題を様々にアレンジして聴かせている。

森林惑星アーボリア – Aeboria(Planet of the Tree Men)(ジョン・ディーコン)

ギリシャ神話の船人を美しい歌声で誘惑する怪物セイレーンの歌声のような美しさにうっとりする女声の囁く合唱(もしくはシンセサイザーの可能性もある)の中、オカリナを思わせるシンセサイザー音で奏でられるノスタルジックなメロディも心地よいナンバーである。

それにしてもジョン・ディーコンは独創的な曲を書き、驚嘆に値する。

エスケイプ・フロム・ザ・スワンプ – Escape from the Swamp(ロジャー・テイラー)

ロジャー・テイラーのティンパニが印象的なナンバーである。このナンバーでもシンセサイザーが効果的に使われていて、ロジャー・テイラーの独壇場である。

フラッシュ・トゥ・ザ・レスキュー – Flash to the Rescue(ブライアン・メイ))

1曲目の「フラッシュのテーマ」をモチーフに、間奏にシンセサイザーを軸にバンド演奏が楽しめる一曲だ。

鷹人間バルタンのテーマ – Vultan’s Theme(Attack od the Hawk Men)(フレディ・マーキュリー)

鷹人間たちが空中から攻撃を仕掛けているイメージが湧く、これまたシンセサイザーにより奏でられる小気味よい音世界である。

宇宙戦争のテーマ – Battle Theme(ブライアン・メイ)

ブライアン・メイの迫力のギター・サウンドをフィーチャーしたバンド演奏に圧倒されるクイーンの激しい一面が前面に出たナンバーである。原題の「Battle Theme」そのままの音世界を作り上げている。

ウエディング・マーチ – The Wedding March(ブライアン・メイ)

メンデルスゾーンの「夏の夜の夢」で余りにも有名な、そして結婚式には欠かせない曲をブライアン・メイがギター・アレンジで聴かせた一曲である。この曲は誰も一度は耳にしたことがある旋律で、ブライアン・メイが何とも心地よさそうにギターを弾いている。

デイルとミン皇帝の結婚 – Marriage of Dale and Ming(and Flash Approaching)(ブライアン・メイ/ロジャー・テイラー)

1曲目の「フラッシュのテーマ」をモチーフにしたナンバーで、ブライアン・メイとロジャー・テイラーの共作である。ブライアン・メイのギターとロジャー・テイラーのドラムをそれぞれフィーチャーしていて、「Flash Ah, Ah」という緊迫のコーラスがやはりとても印象深い。

ミンゴ・シティへ急降下 – Crash Dive on Mingo City(ブライアンレ・メイ)

ブライアン・メイの凄さが分かるナンバーだ。ブライアン・メイのギターが迫力満点なのである。骨太のロック・ナンバーとなっている。

フラッシュのテーマ – Flash’s Theme Reprise(Victory Celebrations)(ブライアン・メイ)

1曲目の「フラッシュのテーマ」をモチーフに、勝利を歌う頌歌的な音作りとなっている。それにしても「フラッシュのテーマ」はどうアレンジしてもとても印象に残る主題で、ここでは「勝利」を称えているのがよく表れている。

ザ・ヒーロー – The Hero(ブライアン・メイ)

フレディ・マーキュリーの迫力のヴォーカルが堪能できる終曲である。もちろん、作曲者のブライアン・メイのギターは冴えに冴え渡り、クイーンのバンド演奏の凄みが感じられるナンバーだ。

とはいえ、この終曲も1曲目の「フラッシュのテーマ」をモチーフにしていて、全曲を通して聴いてきて、つくづくクイーンのコーラスの素晴らしさに驚嘆せざるを得ないのだ。

まとめ

クイーンが初めて手がけたサウンド・トラックは、映画「フラッシュ・ゴードン」を全く知らずに聴いたならば、クイーンがプログレッシヴ・ロックに挑戦したと思えるようなほどにそのコンセプト的な性格が際立つサントラ盤となっている。

クイーンはこのサントラで、全面的にシンセサイザーを取り入れ、音を自在に操りながら、情景がイメージできる叙事詩的な音楽世界を作り上げている。それにしてもクイーンのコーラスの素晴らしさは凄いの一言だ。

ライター:積緋露雪

1964年生まれ。栃木県在住。自費出版で小説『審問官』シリーズを第三章まで出版。普段はフリーのライターとして活動中。嘗ての角川書店の音楽雑誌「CDで~た」の執筆・編集・企画を担当という経歴の持ち主。

※この記事は、以前筆者が運営していた音楽サイト「バンド部ねっと」から移行した記事となります。