アルバム紹介・解説|クイーン『インニュエンドウ』——フレディ・マーキュリー生前の実質的ラスト作となった14作目は荘厳な作品!

音楽レビュー
クイーン14th『インニュエンドウ』ジャケット

1991年11月24日にフレディ・マーキュリーがHIV感染合併症によるニューモシスチス肺炎により亡くなった。享年45である。そのフレディ・マーキュリー生前の実質的ラスト・アルバムとなった14th『インニュエンドウ』は、フレディ・マーキュリーの死と切り離して語れないが、しかし、それは荘厳なのである。

『インニュエンドウ』のリリースは1991年である。死が差し迫っていたにもかかわらず、このアルバムでのフレディ・マーキュリーのヴォーカルは鬼気迫るものがあり、迫力満点である。どこにそんな力が残っていたのか不思議であり、神がかっているのだ。

尚、全曲全てクレジットはクイーンなのだが、現在は誰が作ったのか分かっているのでそちらを優先させた。

Queen – Innuendo|各曲解説

アルバム基本情報

リリース日時 1991年2月5日(英国)
ジャンル ハードロック
収録時間 53分48秒(CD)
レーベル パーラフォン

インニュエンドウ – Innuendo(フレディ・マーキュリー/ロジャー・テイラー)

移調を効果的に用いて壮大でドラマチックなナンバーに仕上がっている。途中のスパニッシュ・ギターはプログレッシヴ・ロック・グループ、イエスのギタリスト、スティーヴ・ハウが弾いている。

エキゾチックな旋律もフレディ・マーキュリーらしく複雑な構成の楽曲で、フレディ・マーキュリー畢生の一曲といえる、フレディ・マーキュリーというアーティストの醍醐味がたっぷりと堪能できる。

しかし、これほど複雑な構成をしていながらとても自然に聞こえるのはやはり、クイーンならではのもので、フレディ・マーキュリーのコンポーザーとしての才能は何物にも代えがたいことを思い知らされる一曲でもある。

狂気への序曲 – I’m Going Slightly Mad(フレディ・マーキュリー)

シンセサイザーのサウンドが何やら不吉な予感を奏でるイントロで、一気に聴くものをフレディ・マーキュリーの世界に引き込むあたりは流石である。リード・ヴォーカルのフレディ・マーキュリーのヴォーカルは自在であり、それには目を瞠るばかりである。

曲の構成も前曲同様に複雑でありながら、クイーンはそれを難なく弾きこなしてしまうその力量には感嘆せざるを得ない。フレディ・マーキュリーのヴォーカル同様にブライアン・メイのギターがなんともいえない味を出していて聴き応え十分である。

ヘッドロング – Headlong(ブライアン・メイ)

ギターが前面に出たブライアン・メイの手になるハード・ロック・ナンバーだ。リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務めている。

フレディ・マーキュリーの水を得た魚のようなヴォーカルも素晴らしい一曲である。クイーンならではの美しいコーラスも聴き所である。とにかく疾走感たっぷりのナンバーで、ブライアン・メイのギターが冴えに冴え渡っている。

アイ・キャント・リヴ・ウィズ・ユー – I Can’t Live With You(ブライアン・メイ)

前曲同様ブライアン・メイの手になるハード・ロック・ナンバーである。リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務めている。

こちらは、ブライアン・メイのギターが前面に出るというよりもフレディ・マーキュリーの全盛期と変わらない芳醇なヴォーカルとのランデ・ヴーを楽しんでいるかのような演奏が白眉である。コーラスも相変わらず美しく、これはクイーンにしか表現できない音楽世界である。

ドント・トライ・ソー・ハード – Don’t Try So Hard(フレディ・マーキュリー)

フレディ・マーキュリーの手になる大変美しいドラマチックなバラード・ナンバーだ。リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務めていて、繊細な表情を見せる歌声から大変伸びやかな絶唱まで表情も豊かに情感たっぷりに歌い上げている。

そのフレディ・マーキュリーのヴォーカルにそっと寄り添うようにブライアン・メイが美しい旋律をギターで歌い上げているところなど、心に染み入る一曲だ。

ライド・ザ・ワイルド・ウインド – Ride The Wild Wind(ロジャー・テイラー)

ロジャー・テイラーの手になる疾走感あるロック・ナンバーである。ここでもリード・ヴォーカルのフレディ・マーキュリーの自在なヴォーカルには感嘆せざるを得ず、また、疾風をギターで表現しているようなブライアン・メイのギターも聴きものである。

この曲の疾走感はロジャー・テイラーのドラムが演出していて、クイーンのチームワークの素晴らしさがうかがい知れるナンバーでもある。とにかく、とてもユニークなナンバーである。

神々の民 – All God’s People(フレディ・マーキュリー/マイク・モラン)

元々はフレディ・マーキュリーのソロ・アルバム『バルセロナ』に収録予定の曲であったが、ヴォーカル・パートナーのモンセラート・カバリェに拒否されたためにこのアルバムに収められた作品である。

多重録音で収録されたフレディ・マーキュリーのヴォーカルが暴れ回るといった表現がぴったりな人間賛歌の歌である。それにしてもフレディ・マーキュリーのヴォーカルの力強いことといったら驚く他ない。

輝ける日々 – These Are The Days Of Our Lives(ロジャー・テイラー)

ノスタルジックで美しい曲である。ロジャー・テイラーの手になるナンバーで、リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務めている。今ある命、そして過去へと思いを馳せているかのような滋味深いヴォーカルをフレディ・マーキュリーは聴かせている。

こんなにも変幻自在なヴォーカルを聴かせられるフレディ・マーキュリーというアーティストがもう風前の灯火だということが信じられないほどに生き生きとしたヴォーカルを聴かせている。

愛しきデライラ – Delilah(フレディ・マーキュリー)

デライラとは当時、フレディ・マーキュリーが飼っていた愛猫の名である。フレディ・マーキュリーのリード・ヴォーカルは歌っていてとても楽しげで、本当にフレディ・マーキュリーというアーティストのヴォーカルは表情豊かである。

また、ブライアン・メイがトークボックスを使ってギターで猫の鳴き声を演奏している。

ザ・ヒットマン – The Hitman(フレディ・マーキュリー)

フレディ・マーキュリーには珍しい正統派ハード・ロック・ナンバーである。ブライアン・メイの骨太のギターが暴れ回り、ジョン・ディーコンとロジャー・テイラーのリズム隊も気合い十分の演奏を聴かせていて、それをバックにフレディ・マーキュリーが迫力満点のヴォーカルを聴かせている。

このナンバーは激しさばかりに耳がゆくが、しかし、ここで表現されているドラマ性もフレディ・マーキュリーの特筆すべき才能で、聴くものを唸らせる。

ビジュウ – Bijou(フレディ・マーキュリー/ブライアン・メイ)

ブライアン・メイのギターがメロディアスに歌い上げる様が素晴らしいナンバーである。ここではフレディ・マーキュリーの情感豊かなヴォーカルとブライアン・メイのギターはコール&レスポンスをしていて、じっとりと心に染み入る。ブライアン・メイの超絶技巧の演奏には感嘆せざるを得ない。

ショウ・マスト・ゴー・オン – The Show Must Go On(ブライアン・メイ/ジョン・ディーコン/ロジャー・テイラー)

フレディ・マーキュリー以外のメンバーの手になるナンバーだが、フレディ・マーキュリーの遺言にも聞こえてしまう『インニュエンドウ』の最後を飾るに相応しいナンバーともいえる。

曲調はバラード曲で、フレディ・マーキュリーのリード・ヴォーカルは相変わらず変幻自在で馥郁たる香りが漂うかのような芳醇なヴォーカルを聴かせているが、聴くものはどこか哀しみを抑えきれず、フレディ・マーキュリーの死を強く意識してしまうナンバーといえる。

まとめ

このアルバム『インニュエンドウ』は実質的にフレディ・マーキュリー生前ラストのアルバムで、どう聴こうがどうしてもフレディ・マーキュリーの死を意識せざるを得ない。しかし、『インニュエンドウ』でのフレディ・マーキュリーは、全盛期を彷彿とさせる鬼気迫るヴォーカルを聴かせていて、それはもう神がかっているとしかいえないほどだ。

変幻自在で芳醇な香り漂う美麗なフレディ・マーキュリーという不世出なアーティスト兼ヴォーカリストの真骨頂がこの『インニュエンドウ』では惜しみなく表現されている。死を覚悟したフレディ・マーキュリーの最後のプレゼントがこの『インニュエンドウ』である。

ライター:積緋露雪

1964年生まれ。栃木県在住。自費出版で小説『審問官』シリーズを第三章まで出版。普段はフリーのライターとして活動中。嘗ての角川書店の音楽雑誌「CDで~た」の執筆・編集・企画を担当という経歴の持ち主。

※この記事は、以前筆者が運営していた音楽サイト「バンド部ねっと」から移行した記事となります。