アルバム紹介・解説|クイーン『ザ・ゲーム』——8thアルバムで第二次絶頂期を迎えた!

音楽レビュー
クイーン8th『ザ・ゲーム』ジャケット

この8thアルバム『ザ・ゲーム(原題 :The Game)』で、クイーンは「ボヘミアン・ラプソディ」の影から完全に抜け出し、収録曲「愛という名の欲望」と「地獄へ道連れ」が全米1位を獲得するなど、第二次絶頂期を迎えることになる。リリースは1980年。

曲調はそれまでのクイーンとは一線を画し、シンプルな構造の楽曲が多く収録されていて、クイーンは骨組みだけでできたかのような楽曲でも聴くものの心を鷲掴みにできることを心得たのか、変にテクニックに走ったり、奇抜さを求めることはせずに、これぞロックの王道といった堂々たる風格を漂わせ始めている。

Queen – The Game|各曲解説

アルバム基本情報

リリース日時 1980年6月30日(英国)
ジャンル ハードロック
収録時間 35分42秒
レーベル EMI

プレイ・ザ・ゲーム – Play The Game(フレディ・マーキュリー)

飛行機のエンジン音にも似たシンセサイザー音からフレディ・マーキュリーのピアノの弾き語りで始まるこの曲は、これまでのクイーンの音楽を踏襲している。フレディ・マーキュリーの美麗なヴォーカルに相変わらず美しいコーラスなど、どれも天下一品である。

しかしながら、この曲ではシンセサイザーが効果的に使用され、シンセサイザーが大活躍し、”音のオーロラ”のような美しくもすぐに表情を変えるその音色にクイーンはコーラス以外の美しい音を見つけ、積極的にそれを取り入れている。大変ドラマチックなナンバーだ。

ドラゴン・アタック – Dragon Attack(ブライアン・メイ)

ジョン・ディーコンのベースが地を這う野太いビートを刻み、ブライアン・メイのギターが冴え渡るブライアン・メイの手になるナンバーだ。

リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務め、骨太なロック・ナンバーを見事に歌い上げている。曲の構造はとてもシンプルで、この曲を聴く限り、クイーンは何かシンプルでも十分に極上の楽曲になる秘訣を掴んだようだ。

地獄へ道連れ – Another One Bites The Dust(ジョン・ディーコン)

ジョン・ディーコンのベースが大活躍するジョン・ディーコンの手になるナンバーである。全米1位を獲得した曲でもある。リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務めている。

野太いベース音で、とても耳に残るビートを刻み、そこに「ジャーン」というシンセサイザー音を被せては曲調が変わる、よく練られた音作りがなされていて、迫力のフレディ・マーキュリーのヴォーカルと激しいブライアン・メイのギター、そしてシンセサイザーがぶつかり合う緊迫感あふれるロック・ナンバーを聴かせている。

夜の天使 – Need Your Loving Tonight(ジョン・ディーコン)

オーソドックスなジョン・ディーコンの手になるロック・ナンバーだ。アメリカン・ロック調の雄大さを感じさせるナンバーをリード・ヴォーカルのフレディ・マーキュリーが勇壮に歌い上げている。

音楽することの楽しさも感じられるバンド演奏がクイーンの充実感を表していて、この時期、クイーンがいかにバンドとして成熟したかが分かるナンバーでもある。

愛という名の欲望 – Crazy Little Thing Called Love(フレディ・マーキュリー)

フレディ・マーキュリーのアコースティック・ギターで始まるこのナンバーも全米1位を獲得した曲である。リード・ヴォーカルのフレディ・マーキュリーがエルヴィス・プレスリーばりの物凄いヴォーカルを聴かせていて、聴き応え十分だ。

曲調も往年のエルヴィス・プレスリーを彷彿とさせるロック・ナンバーに仕上がっていて、このナンバーでつくづくフレディ・マーキュリーの変幻自在のヴォーカルに感嘆せざるを得ない。

ロック・イット – Rock It(Prime Jive)(ロジャー・テイラー)

リード・ヴォーカルをロジャー・テイラーが務めているロジャー・テイラーの手になるナンバーである。ビートの効いた疾走感あふれるロック・ナンバーで、ロジャー・テイラーがフレディ・マーキュリーばりの迫力のヴォーカルを聴かせている。

しかし、クイーンの4人のメンバーのその才能の凄さには今更ながら驚嘆せざるを得ない。このナンバーもアメリカン・ロック調の曲作りが行われていて、クイーンのバンド演奏が光る。

自殺志願 – Don’t Try Suicide(フレディ・マーキュリー)

手拍子で始まり、そこにジョン・ディーコンのベースが加わりと、とてもシンプルな構造のナンバーである。ところが、曲調はフレディ・マーキュリーならではの複雑さを持っていて、時に遊び心も加えながら、「自殺をやめて」と歌われている。

このナンバーで、フレディ・マーキュリーは様々な表情のヴォーカルを聴かせていて、「あなたは必要」と力強く歌い上げる。ブライアン・メイのギターも小気味よく、とてもユニークなナンバーに仕上がっている。

スウィート・シスター – Sail Away Sweet Sister(ブライアン・メイ)

どこか切なさが漂うブライアン・メイの手になるナンバーである。リード・ヴォーカルもブライアン・メイが務めていて、船で旅立ってしまったシスターに対するなんともいえない感情を表現したナンバーで、切なさばかりが募るのだ。

ブライアン・メイのギターは相変わらず冴え渡り、この切ないナンバーをドラマチックに聴かせている。コーラスも相変わらず美しく、クイーンにしか表現できないナンバーといえる。

カミング・スーン – Coming Soon(ロジャー・テイラー)

ロジャー・テイラーの手になるビートの効いた疾走感あるナンバーだ。リード・ヴォーカルはフレディ・マーキューが務めている。また、ロジャー・テイラーのドラムも迫力があり、このビート感はロジャー・テイラーにしか出せないナンバーといえる。コーラスも分厚い音作りがなされていて、聴き応え十分である。

セイヴ・ミー – Save Me(ブライアン・メイ)

ブライアン・メイの手になる大変ドラマチックなナンバーだ。リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務めていて、切々と歌い上げるところなど心に染み入る滋味深いヴォーカルを聴かせている。

一聴するとフレディ・マーキュリーが曲を書いたのではないかと思えるほどにブライアン・メイの作曲能力も大変な進歩を遂げたことが分かるナンバーで、また、ブライアン・メイのギターがドラマチックさに花を添えている。感動的なナンバーだ。

まとめ

この『ザ・ゲーム』でクイーンは新たな段階に入ったといえる。それは、シンプルな曲構造でも十二分に聴き応え十分なナンバーに仕上げることが可能であることを体得したのか、この『ザ・ゲーム』では凝りに凝った、例えば「ボヘミアン・ラプソディ」のようなナンバーは影を潜めている。

また、この『ザ・ゲーム』は売れに売れたアルバムでもあり、特にフレディ・マーキュリーがエルヴィス・プレスリーばりのヴォーカルを聴かせる「愛という名の欲望」が印象深い。

更に、この『ザ・ゲーム』で4人のメンバーのナンバーがどれもが充実していて、聴き応え十分なのだ。そして、4人のメンバーの個性が際立ち、アルバムを多彩なものにしている。

ライター:積緋露雪

1964年生まれ。栃木県在住。自費出版で小説『審問官』シリーズを第三章まで出版。普段はフリーのライターとして活動中。嘗ての角川書店の音楽雑誌「CDで~た」の執筆・編集・企画を担当という経歴の持ち主。

※この記事は、以前筆者が運営していた音楽サイト「バンド部ねっと」から移行した記事となります。