アルバム紹介・解説|クイーン『華麗なるレース』——前作『オペラ座の夜』と対をなす5thアルバムも名盤の呼び声が高い!

音楽レビュー
クイーン5th『華麗なるレース』

5thアルバム『華麗なるレース(原題:A Day at the Races)』のリリースは1976年で、前作の『オペラ座の夜』と対をなす姉妹盤といわれている。

この作品でクイーンは第一の絶頂を迎えたことになる。日本ではクイーンのファンの多くは、この『華麗なるレース』までの曲を愛しているといわれている。

この『華麗なるレース』はクイーンにとって初の自己プロデュースとなった作品でもあり、変なしがらみから解放された一方で、自縄自縛に陥りかねないところをクイーンはこの作品でもその羨ましい限りの才能を遺憾なく発揮していて聴き応え十分である。

Queen – A Day at the Races|各曲解説

アルバム基本情報

リリース日時 1976年12月10日(英国)
ジャンル ハードロック
収録時間 44分24秒
レーベル EMI

タイ・ユア・マザー・ダウン – Tie Your Mother Down(ブライアン・メイ)

銅鑼の打撃音から幕を開けるこの『華麗なるレース』の第一曲は、ブライアン・メイの手になる一曲である。相変わらずの超絶技巧のギターを聴かせるブライアン・メイのギターが唸り、リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務めている。

ブライアン・メイの手になる楽曲らしく、疾走感あふれるナンバーで、しかもその上に曲の構成は入り組んだものとなっていて、クイーンの魅力の一つである難曲をいとも簡単に弾きこなしてしまうそのバンドとしての力量の凄さがよく表れている。

テイク・マイ・ブレス・アウェイ – You Take My Breath Away(フレディ・マーキュリー)

クイーンの魅力の一つであるとても美しいコーラスで始まるこのナンバーは、しかし、ほぼ、フレディ・マーキュリーのピアノの弾き語りのバラード・ナンバーである。やはり、フレディ・マーキュリーのバラードは天下一品で、情感たっぷりに歌い上げるフレディ・マーキュリーのヴォーカルには聴き惚れてしまう他ないのだ。

ここぞ、と言うところで憎いばかりのコーラスの使い方など、心に染み入る曲の構成は流石の一言で、このバラード・ナンバーも、クイーンを代表する一曲の一つである。それにしてもフレディ・マーキュリーはとても美しい旋律を書く名人といえる。

ロング・アウェイ – Long Away(ブライアン・メイ)

リード・ヴォーカルはブライアン・メイが務めている。アコースティックギターが素朴な味わいを醸し出しながら、しかし、そこはブライアン・メイである、転調を織り交ぜた多少入り組んだ構成の曲調となっていて、聴かせ所をこれまでの経験から完全につかみ取ったかのようなナンバーである。

コーラスの織り交ぜ方が素晴らしく、素朴な味わいのナンバーがコーラスにより一気に華やかになるなど、クイーンの屋台骨の一人であるブライアン・メイの魅力が詰まった作品だ。ドラマチックなエレキ・ギターは流石ブライアン・メイである。

ミリオネア・ワルツ – The Millionaire Waltz(フレディ・マーキュリー)

フレディ・マーキュリーの物凄い才能をまたもや感じる一曲である。3拍子のワルツなのだが、ワルツもフレディ・マーキュリーの手にかかると、なんとドラマチックなナンバーになることか。

フレディ・マーキュリーのピアノとブライアン・メイのギターのランデヴーの心地よさが際立つ一曲で、クイーンのメンバーがこのナンバーでは演奏することを心の底から楽しんでいるのが分かる聴き所満載の一曲である。

ユー・アンド・アイ – You and I(ジョン・ディーコン)

ジョン・ディーコンのただならぬ作曲能力が分かる一曲である。フレディ・マーキュリーともブライアン・メイとも、もちろんロジャー・テイラーとも違ったジョン・ディーコンにしか表現できない骨太のロック・ナンバーに仕上がっている。

リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務めているが、それだからこそなお一層、ジョン・ディーコンの個性がはっきりと分かるナンバーだ。クイーンの強みは4人のメンバーが皆、作曲できることとであり、だからこそ彩り華やかなのである。

愛にすべてを – Somebody to Love(フレディ・マーキュリー)

誰もが一度は耳にしたことがある名曲だ。フレディ・マーキュリーのバラードはどうして心に染み入るのだろうか。フレディ・マーキュリーは「ボヘミアン・ラプソディ」に代表される非常に入り組んだ難曲を作るかと思えば、一度聴いたらもう忘れられない美しいバラードを書き、それがクイーンを代表するナンバーになってしまう。

この「愛にすべてを」もそんなナンバーで、コーラスとともに「Somebody to Love」と合唱するところなど一度聴いたら耳から離れない美麗なナンバーである。多分、フレディ・マーキュリーのバラードは奇をてらっていないところが耳に心地よさをもたらすその要因になっているように思う。

ホワイト・マン – White Man(ブライアン・メイ)

非常に劇的なナンバーである。静と動が上手く組み合わされた楽曲で、この楽曲で、ブライアン・メイのギターがせきを切ったかのように炸裂している。リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務めていて、このドラマチックなナンバーを巧みに歌い上げ、このナンバーにもクイーンの魅力が凝縮しているといえる。

ブライアン・メイのギターはもちろんのこと、クイーン独特のコーラスなど、よりどりみどりで、動の部分での迫力ある華美さと言ったらいいのか、どんなに強烈なサウンドでも美しさを失わないのがクイーンの特徴といえ、そのクイーンの魅力がたっぷりと堪能できる。

懐かしのラヴァー・ボーイ – Good Old Fashioned Love Boy(フレディ・マーキュリー)

この曲も誰もが一度は耳にしたことがある名曲だ。3分弱とそんな大曲ではないが、小気味よくも切々と歌うフレディ・マーキュリーのヴォーカルが光るナンバーで、「Ooh la, Ooh Lover Boy」とコーラスと合唱するところなど、憎いほどによく練られた上でのとても印象に残る一曲である。

このナンバーもクイーンを代表するナンバーで、フレディ・マーキュリーのとんでもない才能が遺憾なく発揮されているといえるだろう。フレディ・マーキュリーは聴かせ所を心得ていて、それは天性のものと思え、だから聴くものを魅了してやまないのだ。

さまよい – Drowse(ロジャー・テイラー)

リード・ヴォーカルはロジャー・テイラーである。ギターもロジャー・テイラーが弾いていて、そのスライド・ギターの腕前は一級品である。このナンバーはロジャー・テイラーもその作曲能力はただならぬものがあることを思い知らしめるに十分な楽曲で、独特の味わいを醸し出している。

やはり、4人が皆、作曲ができ、ヴォーカルもできるクイーンというバンドは、才能の集まりであり、それがクイーンの第一の魅力となっている。幾分ハスキーなロジャー・テイラーのヴォーカルはクイーンになくてはならないものといえる。

手をとりあって – Teo Torriatte(Let Us Cling Together)(ブライアン・メイ)

日本語の歌詞で一部歌われているクイーンの日本好きがよく分かるバラード・ナンバーである。リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務めていて、ブライアン・メイが書いた絶品のバラード曲を情感たっぷりに歌い上げ、日本語もしっかりと発音されている。

当然、日本でのみシングル・カットされたナンバーで、日本のファンは大喜びだったのである。曲調は大変ドラマチックで、ブライアン・メイのギター演奏をそのまま歌にしたかのような旋律は大変印象的で、心に残るバラード・ナンバーだ。

まとめ

この『華麗なるレース』は『オペラ座の夜』を踏まえてのクイーンの意欲作といえ、このアルバムで、クイーンは第一の絶頂期を迎えることになったのである。

一部では『オペラ座の夜』に比べてドラマ性や奇抜性に欠けるといわれているが、この『華麗なるレース』を聴けば分かるが、よく知られたナンバーが収録されていて、決して『オペラ座の夜』に引けを取らないと思える。

クイーンの自己プロデュースということもあり、収録曲全ては、何かから解き放たれたかのように自由が感じられる。それにしても、クイーンのナンバーを聴くとつくづく思うのであるが、フレディ・マーキュリーの才能は飛び抜けて素晴らしいもので、クイーンの顔としてのフレディ・マーキュリーの存在は大変大きなものである。

ライター:積緋露雪

1964年生まれ。栃木県在住。自費出版で小説『審問官』シリーズを第三章まで出版。普段はフリーのライターとして活動中。嘗ての角川書店の音楽雑誌「CDで~た」の執筆・編集・企画を担当という経歴の持ち主。

※この記事は、以前筆者が運営していた音楽サイト「バンド部ねっと」から移行した記事となります。