アルバム紹介・解説|シガー・ロス『Takk…(ありがとう)』

音楽レビュー
Sigur Ros - Takk...|ジャケット画像

シガー・ロス至上、最も喜びに満ち溢れた作品である。

とは言っても、彼らお得意の実験的なサウンドやどこか影のある旋律は相変わらずところどころに散りばめられている。

しかし、暗闇にぽんと放り出されたような不安定さや不快な音の歪みは全く感じさせない。強く、美しい1枚となった。

彼らシガー・ロスに、憎らしくもありがとうと伝えたくなる1枚

日本語で「ありがとう」を意味する『Takk…』。イントロは心地が良いのにどこかぞくぞくとした興奮を感じ、このアルバムの前向きなパワーを予感させる。そしてすぐに喜びの爆発が続いていく。

イントロの予感は確信に変わり、優しく、暖かく、ちょっと切ないのにネガティブな感情の混じらない素直な音に包まれる。まるで世界中から祝福されているような気持ちになってしまう曲が続いていく。

前作までは楽器のように音楽と一体化していることが多かったヨンシーの声は、今作でははっきりと「歌」として音楽に乗っているようにも感じる。

また、今作はこれまで彼らが独自に使用していたホープランド語ではなく、母国語であるアイスランド語で歌われている。ヨンシーの明確な「歌」に母国語を乗せて歌うことで、強いメッセージ性の感じられる作品となったのではないだろうか。

ひとつだけ、本当にひとつだけこのアルバムに問題点を挙げるとすれば、1枚聴きとおすのに莫大な体力を要するということである。冒頭から容赦なく続く嵐のような喜びに、押しつぶされそうになるのだ。

中盤で「Se Lest」というおとぎ話のような1曲が登場する。この曲で少し一息つけるかな、と思うのだが、まるで喜劇のように目まぐるしく変わる展開に舌を巻き、結局彼らの魅せる無邪気な音楽を追わざるを得なくなってしまう。

そんな強烈な引力のある曲ばかりがこれでもかというくらいに詰め込まれており、このアルバムを聴き終わる頃にはとんでもない躁状態から脱した後のような気分になっている。本当に素晴らしい曲ばかりなのだが(本当に素晴らしい曲ばかりだからこそなのだろうか)。

なんだか地味にも見えるアルバムのアートワークにすら騙されたような気がして、少しだけ彼らのことが憎らしくなる。

それでも、『Takk…』というタイトルの通り、なんだか彼らにもありがとうと伝えたくなるようなアルバムだ。世界中のどこを探しても、あと何十年、何百年経っても、こんなにも強い喜びが詰め込まれたような作品は出てこないのではないだろうか。

きっと誰もがこのアルバムと奇跡的に出会えたことを感謝してしまうだろう。

Sigur Ros – Takk…|アルバム情報

リリース日時 2005年9月12日
ジャンル ポストロック/アンビエント
収録時間 65分32秒
レーベル EMI

ヨンシー・ビルギッソン、ゲオルグ・ホルム、アウグスト・グンナルソンによって結成されたアイスランドを代表するポストロック/アンビエント系バンド、シガー・ロスの4枚目のアルバム。2005年発売。

彼らがそれまでの作品で使用していた独自の言語「ホープランド語」ではなく、今作では大半の楽曲を母語のアイスランド語で歌われていることも、前作までとは異なった点だ。

アメリカでは初のゲフィン・レコードから発売された1枚でもあり、「ビルボード200」では27位を獲得した(前作『()』では51位)。リリース1週目で3万枚を売り上げた。

収録曲一覧

  1. Takk…
  2. Glósóli
  3. Hoppípolla
  4. Með Blóðnasir
  5. Sé Lest
  6. Sæglópur
  7. Mílanó
  8. Gong
  9. Andvari
  10. Svo Hljótt
  11. Heysátan

※この記事は、以前筆者が運営していた音楽サイト「バンド部ねっと」から移行した記事となります。