アルバム紹介・解説|クイーン『ザ・ワークス』——シンセにもこなれ、QUEENらしいナンバーが目白押しの大ヒット作
前作『ホット・スペース』に対して思うところがあったのか、シンセサイザーにその道に精通したフレッド・マンデルを迎え、クイーンはシンセサイザーを完全に使いこなしたクイーンの魅力が再び燦然と輝く11thアルバム『ザ・ワークス(原題:The Works)』を1984年に発表。
このアルバムはセールス的にも大成功を収める。大ヒット曲「RADIO GA GA」を含め、『ザ・ワークス』に収録されたいずれの楽曲も秀作揃いで、シンセサイザーを前面には出すことなく、飽くまでバンド演奏を中心に据えた音作りがクイーンの成熟を表している。
- Queen – The Works|各曲解説
- アルバム基本情報
- RADIO GA GA – Radio Ga Ga(ロジャー・テイラー)
- ティア・イット・アップ – Tear It Up(ブライアン・メイ)
- 永遠の誓い – It’s a Hard Life(フレディ・マーキュリー)
- マン・オン・ザ・プロール – Man on the Prowl(フレディ・マーキュリー)
- マシーン・ワールド – Machines(Or ‘Back to Humans’)(ロジャー・テイラー)
- ブレイク・フリー(自由への旅立ち) – I want to Break Free(ジョン・ディーコン)
- 愛こそすべて – Keep Passing The Open Windows(フレディ・マーキュリー)
- ハマー・トゥ・フォール – Hammer to Fall(ブライアン・メイ)
- 悲しい世界 – Is This the World We Created…?(ブライアン・メイ/フレディ・マーキュリー)
- まとめ
Queen – The Works|各曲解説
アルバム基本情報
リリース日時 | 1984年2月27日(英国) |
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ジャンル | ハードロック |
収録時間 | 37分15秒 |
レーベル | EMI |
RADIO GA GA – Radio Ga Ga(ロジャー・テイラー)
ロジャー・テイラーの手になる大ヒット・ナンバーである。『ザ・ワークス』の先行シングルであった。この曲で、クイーンはシンセサイザーとロジャー・テイラーのサンプリング、バンド演奏の見事な融合に成功していて、クイーンの進化が証明された楽曲といえる。
『ザ・ワークス』の収録曲の中で最もシンセサイザー色が色濃いナンバーだが、そこはクイーン、前作『ホット・スペース』の轍は踏まず、クイーン流の上質のテクノ・ポップを聴かせている。
ティア・イット・アップ – Tear It Up(ブライアン・メイ)
ブライアン・メイのギターが炸裂するブライアン・メイの手になるハード・ロック・ナンバーである。前曲「RADIO GA GA」とのコントラストも鮮やかで、これも、何でもこなせるクイーンならではの醍醐味といえる。
それにしてもこんなにブライアン・メイのギターが鮮烈なナンバーは久しぶりで、クイーン・ファンはブライアン・メイのギターが暴れ回るナンバーを待ち望んでいたはずである。それだけこのナンバーでのブライアン・メイのギターは白眉である。
永遠の誓い – It’s a Hard Life(フレディ・マーキュリー)
これぞクイーンといったフレディ・マーキュリーの手になるクイーンの魅力が凝縮したナンバーだ。フレディ・マーキュリーの絶唱で始まるこのナンバーは、とてもドラマチックなナンバーで、フレディ・マーキュリーにバラードを書かせたならば、やはり、天下一品である。
もちろん、フレディ・マーキュリーはピアノを弾きながら情感豊かに歌い上げているのであるが、それとともにクイーンの結束感や成熟したバンド演奏は流石の一言で、聴き応え十分のナンバーである。
マン・オン・ザ・プロール – Man on the Prowl(フレディ・マーキュリー)
前々作『ザ・ゲーム』で披瀝したフレディ・マーキュリーのエルヴィス・プレスリーばりのヴォーカルが堪能できるロカビリー風のナンバーである。
ピアノ、ベース、ドラムで基本の音作りがなされ、そのブルージーな演奏をバックにエルヴィス・プレスリーを意識したとしか思えないフレディ・マーキュリーのヴォーカルは、堂に入っていて聴かせるのである。
イントロや終曲での躍動感あふれるハチャメチャに楽しいフレッド・マンデルのピアノ演奏は、黒人音楽の聖地、ニューオーリンズの音楽にも通じるものを感じさせ、また、このナンバーでフレディ・マーキュリーが心ゆくまで歌うことを愉しんでいることがよく分かる。途中より参加のブライアン・メイの渋いギターも聴きもの。
マシーン・ワールド – Machines(Or ‘Back to Humans’)(ロジャー・テイラー)
シンセサイザーがとても効果的に用いられていて、ロボットの音声を思わせるような音や機械音を思わせる音などを織り交ぜながら「マシーン」を強く意識させるナンバーだ。
このナンバーはロジャー・テイラーの手になり、リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務めているが、このナンバーではフレッド・マンデルのシンセサイザーが大活躍している。
フレッド・マンデルの参加でクイーンが生き生きと演奏し、フレディ・マーキュリーは歌うことに集中できているのではないかといえ、だからこの『ザ・ワークス』は多彩なクイーンの表情が垣間見え、聴いていて心楽しいのだ。
ブレイク・フリー(自由への旅立ち) – I want to Break Free(ジョン・ディーコン)
既にヒットメーカーにまでその作曲の才能が開花したジョン・ディーコンの手になるナンバーで、この『ザ・ワークス』からシングルカットされて、大ヒットしたナンバーである。
ベースとドラムのリズム隊が音の基軸となっていて、曲の構造はとてもシンプルなのだが、メロディがとてもユニークで、また、歌詞も自由に対する物凄く強い思いを歌っている。
途中のフレッド・マンデルと思われるシンセサイザーもまた、味があり、普通であれば、それはブライアン・メイのギターが担当するのであろうが、こなれたシンセサイザーが加わったことで、クイーンの演奏に幅ができて、音作りがとても面白いものになっている。
愛こそすべて – Keep Passing The Open Windows(フレディ・マーキュリー)
ドラマチックなフレディ・マーキュリーの手になるナンバーである。ジョン・ディーコンのベースとフレディ・マーキュリーのピアノというユニークな組み合わせを軸にした音作りで、それにロジャー・テイラーのドラムが絡みながら、フレディ・マーキュリーの歌声が伸びやかにして情感たっぷりに「愛が必要」と歌われている。
また、ブライアン・メイのギターはクイーンの一つの顔というべきもので、このナンバーでも味のあるテクニック抜群のギター演奏を聴かせていて、それがとても印象的だ。
ハマー・トゥ・フォール – Hammer to Fall(ブライアン・メイ)
ハードなブライアン・メイのギターが迫力満点のブライアン・メイの手になるナンバーである。リード・ヴォーカルはフレディ・マーキュリーが務め、ブライアン・メイのギターに負けない、力強い歌声を披露していて、また、クイーンならではの美しいコーラスも織り交ぜながら、クイーンが得意とするハード・ロック・ナンバーを聴かせている。
悲しい世界 – Is This the World We Created…?(ブライアン・メイ/フレディ・マーキュリー)
ブライアン・メイとフレディ・マーキュリーの共作である。当時のアフリカの悲惨な現状を目の当たりにしたフレディ・マーキュリーが「これが私たちが創った世界?」と問いかけているとてもリリカルなナンバーだ。
ブライアン・メイのアコースティック・ギターに寄り添いながらのフレディ・マーキュリーの歌は絶品で、とても心に染み入る美しいナンバーである。
まとめ
シンセサイザーの使い手、フレッド・マンデルが参加したことで、この『ザ・ワークス』では、前作『ホット・スペース』で、音作りの基軸のベースの部分をシンセサイザーが担うというクイーンの本来のサウンドとの相性がちぐはぐだったところが完全に取り除かれ、『ザ・ワークス』ではクイーン・サウンドとシンセサイザーとの見事な融合を果たしている。
その象徴的なナンバーとして大ヒットした『ザ・ワークス』の先行シングル曲の「RADIO GA GA」が挙げられる。その他のナンバーでもシンセサイザーの使い方が絶妙で、だからこそ、『ザ・ワークス』でのクイーンは生き生きとしているのだ。
クイーンのバンド演奏は更に円熟味を増し、迫力のナンバーからリリカルなナンバーまで、多彩なナンバーが『ザ・ワークス』には収録されている。
ライター:積緋露雪
1964年生まれ。栃木県在住。自費出版で小説『審問官』シリーズを第三章まで出版。普段はフリーのライターとして活動中。嘗ての角川書店の音楽雑誌「CDで~た」の執筆・編集・企画を担当という経歴の持ち主。
※この記事は、以前筆者が運営していた音楽サイト「バンド部ねっと」から移行した記事となります。