アルバム紹介・解説|クイーンの3rd『シアー・ハート・アタック』は世界的なバンドへと変貌するその予兆であった!

音楽レビュー
クイーン3rd『シアー・ハート・アタック』ジャケット

『シアー・ハート・アタック(原題:Sheer Heart Attack)』のリリースは1974年11月。クイーンは当時、英国でファンを次第に獲得していた時期で、そのライヴ・パフォーマンスは熱狂的で話題になり始め、知る人ぞ知るところのものとなっていたのである。

そんなツアー中に、ブライアン・メイが肝炎でツアーを離脱せざるを得なくなり、その後のツアーはキャンセルになってしまったのである。クイーンはツアー中、まだ、未発表曲だった『シアー・ハート・アタック』の収録曲をライヴで披露し、ライヴ会場は大合唱に包まれるほどの大盛況だったという。

つまり、クイーンの3rdアルバム『シアー・ハート・アタック』は発売前から好評を博していたのであった。その証拠に先行シングル『キラー・クイーン』は全英で最高2位を記録したのである。

Queen – Sheer Heart Attack|各曲解説

アルバム基本情報

リリース日時 1974年11月8日(英国)
ジャンル ハードロック
収録時間 39分09秒
レーベル EMI

ブライトン・ロック – Brighton Rock(ブライアン・メイ)

ライヴが始まる直前のライヴ会場のざわめきを彷彿とさせる音空間の中から、ブライアン・メイのドライブ感あふれるギターと、フレディ・マーキュリーのファルセットで幕を開けるこの作品で、ブライアン・メイのギターは終始、疾走し続け、超絶技巧を聴かせている。

ブライアン・メイのギターはクイーンの一つの顔であり、この楽曲でそんなブライアン・メイのギターが存分に堪能できる。ブライアン・メイは十二指腸潰瘍で、レコーディングは後録りでの参加になってしまったが、クイーン・サウンドにはブライアン・メイのギターが欠かせないものだと言うことがこの作品で再確認させられる。

キラー・クイーン – Killer Queen(フレディ・マーキュリー)

この楽曲は今も愛されている余りにも有名な楽曲である。誰もが一度は耳にしたことがある楽曲に違いない。指を鳴らしてカウントを取り、フレディ・マーキュリーのピアノで始まるこの曲は、クイーンの魅力が凝縮している。

フレディ・マーキュリー独特の複雑な構成でありながら、聴くものはそんなことは全く感じず聴けてしまうこの『キラー・クイーン』は、耳に心地よく、また、クイーンならではの美しいコーラスがとても印象的で、題名とのギャップがその美しさを更に際立たせているのだ。秀作である。

テニメント・ファンスター – Tenement Funster(ロジャー・テイラー)

アコースティック・ギターのアルペジオ奏法で静かに始まるこの楽曲は、しかしながら、途中からエレキ・ギターがリリカルな旋律を歌うように弾くことで、とてもドラマチックな楽曲に仕上がっている。

これはロジャー・テイラーの手になる作品である。これまで、ストレートなロックンロール・ナンバーを聴かせていたロジャー・テイラーであるが、この作品ではギター・サウンドをメインに楽曲が組み立てられ、しかもドラマチックでありながらとても複雑な構成は、聴くものを感嘆させ、そして感動させるに十分なナンバーである。

フリック・オブ・ザ・リスト – Flick of the Wrist(フレディ・マーキュリー)

ブライアン・メイの華やかなギターで始まるが、曲調は急に地を這うようなミステリアスなものに変わり、フレディ・マーキュリーもそれに応えるように謎めいた表現力抜群のヴォーカルを聴かせ、一気に聴くものを引き込む。

と思うと、また、曲調は美しい旋律のバラード調に変化し、クイーンならではの美麗なコーラスとともにフレディ・マーキュリーが情感たっぷりに歌い上げ、この複雑な構成の楽曲を流麗さも見事に聴かせる。

谷間のゆり – Lily of the Valley(フレディ・マーキュリー)

「谷間のゆり」は英語の熟語で「すずらん」という意味もあるが、歌い上げるようなブライアン・メイのギターと抱擁するようにフレディ・マーキュリーはまるで一輪の花を手にして歌っているかのように切々と歌い上げる。

この作品は終始、美しい旋律で組み立てられた楽曲で、クイーン特有の綺麗なコーラスにもうっとりとするバラードで、美しい旋律もクイーンは絶品である。

ナウ・アイム・ヒア – Now I’m Here(ブライアン・メイ)

静かな闘志を秘めたかのようなブライアン・メイのギター・リフにフレディ・マーキュリーの歌声がぴったりと乗り、曲が始まるこの作品は、ブライアン・メイの手になる楽曲であるが、曲は、進むにつれてブライアン・メイのギターが炸裂し、フレディ・マーキュリーの歌声もギターに合わせて絶唱する。

シングルカットされた曲とあって、聴き所満載の楽曲に仕上がっていて、特にブライアン・メイのギターは絶品である。

神々の業 – In the Lap of the Gods(フレディ・マーキュリー)

圧倒的なパワーと美しさあふれるフレディ・マーキュリーの高音のファルセットにうっとりとする中、これまた、とても美しいコーラスで神秘さ漂う曲が進行してゆく。

この楽曲もフレディ・マーキュリーならではのとても複雑な構成で、中でもギター・サウンドの配置が絶妙であり、フレディ・マーキュリーの独壇場である。

ストーン・コールド・クレイジー – Stone Cold Crazy(ジョ・ディーコン/ブライアン・メイ/フレディ・マーキュリー/ロジャー・テイラー)

4人のメンバーの共作である。

4人の一体感が素晴らしく、疾走感たっぷりのロック・ナンバーが疾駆する。4人のメンバーの持てる力をフルに出しての演奏は、小品ながらも聴き所があり、4人の個性が満載のナンバーだ。

ディア・フレンズ – Dear Friends(ブライアン・メイ)

ブライアン・メイの手になる1分余りの小品であるが、友を思う気持ちをフレディ・マーキュリーが切々と歌い上げ、心に響く楽曲となっている。

この曲ではブライアン・メイは派手な演奏を控え、フレディ・マーキュリーのヴォーカルの引き立て役に徹している。

ミスファイアー – Misfire(ジョン・ディーコン)

ベースのジョン・ディーコンの初めて採用された作品である。とにかくクイーンというバンドは才能の集まりであり、4人のメンバーが全て作曲できるというのは、彩り豊かで、ワンパターンに陥ることはなく、バンドの強みである。

このジョン・ディーコンの作品は、2分弱の小品ながらもベース・ラインが心躍り面白く、そこにフレディ・マーキュリーのヴォーカルとジョン・ディーコンのアコースティック・ギターやブライアン・メイのバンジョー、そしてエレキ・ギターが乗るととても個性的な味わいの楽曲だということが際立つ。

これは、もちろん、フレディ・マーキュリーにもブライアン・メイにもロジャー・テイラーにもない第4の個性が出現した瞬間であり、これによりようやクイーンの全貌の一端が明らかになった瞬間なのだ。

リロイ・ブラウン – Bring Back That Leroy Brown(フレディ・マーキュリー)

ジャジーな音楽のミュージカルの挿入歌のようなコミカルさも加えたこの楽曲で、クイーンは、新たな魅力を見せている。

フレディ・マーキュリーの手になるこの楽曲は、フレディ・マーキュリーならではの込み入った組み立ての楽曲ながら、それをさらりとこなしてしまうクイーンというバンドの懐の深さは、見事としかいえない。

シー・メイクス・ミー – She Makes Me(Stormtrooper In Stilettoes)(ブライアン・メイ)

ジョン・ディーコンのアコースティック・ギターがリズムを刻み、よく響くフレディ・マーキュリーの歌声で伸びやかに歌い上げられるこの楽曲は、一聴するととてもシンプルな楽曲に聞こえるが、しかし、そのドラマチックな曲の進行は、ブライアン・メイが作る曲ならではの特徴といえる。

フレディ・マーキュリーがとても心地よさそうに歌っているのが印象的で、ブライアン・メイもこの時期に至るとフレディ・マーキュリーの”ツボ”がはっきりと分かったのか、ブライアン・メイは明らかにフレディ・マーキュリーの歌声が生きるように楽曲を書いている。

神々の業 – In the Lap of the Gods Revisited(フレディ・マーキュリー)

この楽曲は当時のクイーンのライヴではエンディング曲として歌われ、観衆と一体になって大合唱が巻き起こった曲として有名だ。フレディ・マーキュリーとしてはとてもシンプルな曲でありながら、聴くものの心を震わせずにはいられない高揚感をもたらし、これもまた、フレディ・マーキュリーの楽曲の魅力の一つである。

つまり、とても込み入った楽曲を作るフレディ・マーキュリーが時にとてもシンプルな楽曲を作ると、それは勘所を押さえた聴くものを高揚させずにはいられない旋律に昇華し、心に染み入るに違いないのだ。

まとめ

クイーンの3rdアルバム『シアー・ハート・アタック』はこの後に続く、クイーンの最高傑作といわれるアルバムの、その予兆といえる作品だ。

2ndアルバムまでは、批評家に隙を見せずにある緊迫感がみなぎっていたが、この作品では、4人のメンバーの個性も4人で共有できたのか、フレディ・マーキュリーとブライアン・メイを初め、ロジャー・テイラーやジョン・ディーコンもリード・ヴォーカルのフレディ・マーキュリーがどうすれば心ゆくまで歌えるのか心得た曲作りをしていて、クイーンの結束力が強く表れた作品に仕上がっている。

また、今も愛される名曲「キラー・クイーン」が収められるなど、初期のクイーンを代表する作品といえる。

ライター:積緋露雪

1964年生まれ。栃木県在住。自費出版で小説『審問官』シリーズを第三章まで出版。普段はフリーのライターとして活動中。嘗ての角川書店の音楽雑誌「CDで~た」の執筆・編集・企画を担当という経歴の持ち主。

※この記事は、以前筆者が運営していた音楽サイト「バンド部ねっと」から移行した記事となります。