アルバム紹介・解説|シガー・ロス『Kveikur』3人体制になった彼らの初のセルフプロデュース作品

音楽レビュー
Sigur Ros - Kveikur|ジャケット画像

ロックバンドとしてのシガー・ロス。

そうだ、彼らは紛れもないロックバンドなのだ。

日本語で「導火線」を意味するという「kverkur」。その名の通り、非常にアグレッシヴで情熱的で、いつ爆発するともわからない火花の散るような作品である。

ダークでアグレッシブなロックバンドとしてのシガー・ロス

雷のような轟音から幕を開ける本作。全編を通して破壊的で、強く、美しい楽曲が並んだ。ギター、ベース、ドラムが「普通のロックバンド」の音楽のように、ヨンシーの歌が「普通のロックバンド」の歌のように機能している(これまでの作品において、ヨンシーの声は楽器のように音楽と一体となることが多かった)。

しかし、それはあくまでもシガー・ロスはロックバンドだったということを強く意識せざるを得ないというだけの意味であり、決して彼らが凡庸なロックバンドに成り下がってしまったという意味ではない。

ロックバンドだけが鳴らし得る焦燥感や飢え、渇望や沸騰するような熱いエネルギーが彼らのサウンドに深く混じり、彼らだけにしか鳴らすことのできない、唯一無二の音楽となった。

アルバムは後半に進むにつれてぐんぐんと上り詰め、爆発を続ける。最後の1曲だけは穏やかで、鍵盤とギターのノイズが混じり溶け合うような旋律を残して終わりを迎える。

破壊的でノイジー、どこかダークなサウンドは初期の作品にも多く存在しているが、今作ではそのような雰囲気を残しながらも1曲1曲が非常に洗練されている。歪で不安定なのにも関わらず「よくわからない、なんとなく聴きにくいし不快」「長くて飽きる」と感じるようなことはない(かといって聴きやすいかと言われれば、それは明確に否定する必要はあるが)。

一息つけるような曲や癒しを求められるような曲はひとつもない。しかし、平坦な言い方にはなるが、今作は彼らの熱く、情熱的で、生々しくカッコいい部分だけをこれでもかと詰め込んだ傑作となった。

彼らの音楽は本当に面白い。なんだか意味不明な曲も多くて、陰湿だなと思えば途端にハッピーになったり、エネルギッシュになったり、眠くなったりする。新しい作品をリリースするたびにファンの期待を(良くも悪くも)裏切るし、予測できないことばかりだ。

今作も例によってその通りで、彼らの音楽は驚くべきスピードで進化し続けている。それでも彼らは間違いなくロックバンドであり、心の底から音楽を楽しんでいるのだと強く感じさせる、そんな作品だった。

今度はどのような形で私たちを裏切ってくれるのだろうか。

Sigur Ros – Kveikur|アルバム情報

リリース日時 2013年6月17日
ジャンル ポストロック/アンビエント
収録時間 48分22秒
レーベル XLレコーディングス

ヨンシー・ビルギッソン、ゲオルグ・ホルム、アウグスト・グンナルソンによって結成されたアイスランドを代表するポストロック/アンビエント系バンド、シガー・ロスの7枚目のアルバム。2013年発売。

2作目の『アゲイティス・ビリュン』から加わったキーボディストのキャータン・スヴィーンソンが前作発表以後に脱退しており、3人体制になって初のアルバムでもある。ドラマーのオーリー・ディラソンは2018年9月に過去の性的暴行事件の告発を受けて脱退したため、本作が彼の参加した最後の作品ともなっている。

本作リリースに先駆けて行われた2013年5月の日本武道館公演では見事ソールドアウトを果たし、圧巻のパフォーマンスを繰り広げた。

アルバムジャケット写真はブラジルの写真家リジア・クラーク(Lygia Clark 1920 – 1988)の作品「感覚のマスク」を使用したもの。

収録曲一覧

  1. Brennisteinn
  2. Hrafntinna
  3. Ísjaki
  4. Yfirborð
  5. Stormur
  6. Kveikur
  7. Rafstraumur
  8. Bláþráður
  9. Var

※この記事は、以前筆者が運営していた音楽サイト「バンド部ねっと」から移行した記事となります。