ヘタウマギタリストの魅力
キース・リチャーズ(Keith Richards)、ジミー・ペイジ(Jimmy Page)、ジョー・ペリー(Joe Perry)。彼らの共通点をご存知だろうか? イケメン、かっこいい、モテモテなどではない。共通点、それは「ヘタウマ」だ。彼らは決してテクニカルな速弾きや、様々なスケールを用いたアドリブで演奏するわけではない。
むしろ、リズムがずれたり、アドリブで演奏した時のフレーズが雑だったり、ミスプレイをよくする。しかし、世界中に今もなおファンがいて、彼らの演奏が聴かれるとともに、ギターを弾く人々からはコピーされる存在である。
私も彼らのことが大好きで憧れの存在である。特にエアロスミス(Aerosmith)のギタリスト——ジョー・ペリーが大好きで高校時代はエアロスミスの曲を何曲もコピーしてきた。CDを買うだけでなく、エアロスミスやジョー・ペリーのソロライブ映像をYouTubeなどで観てアドリブで弾くフレーズをたくさんコピーしたことを思い出す。
必ずしもギターテクニックがある上手いギタリストが人々の心に響くのではなく、下手でも魅力があるギタリストが人々を魅了する傾向にある。いわゆる「ヘタウマ」ギタリストが人々から愛されている。
「ヘタウマ」ギタリストが何年もの間人々に愛されるのはなにか理由があるはずだ。そこで、今回は「ヘタウマギタリストの魅力」と第して私なりにヘタウマギタリストの魅力を明かしていこうと思う。なお、私の独断と偏見でヘタウマギタリストを決定したため「~は下手ではない!」のようなクレームは一切受け付けないのでご容赦いただきたい(笑)
そもそも、ヘタウマギタリストとは
私の考えるヘタウマギタリストの定義は「他のギタリストと比較して演奏が特別上手なわけではないが、人々を魅了する事ができるギタリスト」である。
そんな「ヘタウマ」にも様々な種類がある。そこでまずはヘタウマギタリストの「ヘタ」の分類を行う。
- 右手と左手のタイミングが合っていない
- リズムがずれる
- テンポがずれる
- アドリブが下手
- チョーキングの音程がずれている
- ミスタッチが多い
右手と左手のタイミングが合っていない
基本的にギターは左手で鳴らしたい音のポジションを押さえて、右手でピックを使って弦を弾いて音を出す。この時、右手と左手のタイミングが合っていないと音がしっかり鳴らず、音が正しく出なかったり汚くなってしまう。——しかし、ヘタウマギタリストの中にはこの右手と左手のタイミングが合っていない人がいる。
例えば、ジミー・ペイジは速弾きをする際に左手と右手のタイミングのズレが目立つ。音が綺麗に鳴ってない時が多い。練習していないからこのような演奏になってしまうのか、わざとこのように演奏しているか未だに疑問を感じている(笑)
例:ジミー・ペイジ、バディ・ガイ(Buddy Guy)
リズムがずれる
音楽の3要素「メロディ、ハーモニー、リズム」から分かるように、リズムとは音楽において大変重要である。リズムによって、ジャズ風に聴かせることも、ファンクやブルースのように聴かせることも可能である。また、他のパートの音とリズムが上手く絡み合うことで深みがでることもある。
本来であれば、リズムがずれるなんてあってはならないのだがヘタウマギタリストの中にはリズムが甘い人が多いのが事実だ。
例:スティーヴ・ハウ(Steve Howe)、ジミー・ペイジ
テンポがずれる
ソロで演奏する時にテンポがずれても気にならないこともないが、バンドで演奏している時にテンポがずれてしまうと他のメンバーの演奏とずれが生じてしまう。もちろん、楽曲に緩急をつけるためにテンポをわざとずらすことはある。
しかし、ヘタウマギタリストは、テンポキープが必要な箇所で走ったり、もたったりしてしまう。
例:カーク・ハメット(Kirk Hammett)
カーク・ハメットのテンポのずれに関しては、ドラムのラーズ・ウルリッヒ(Lars Ulrich)がテンポキープできてないというのも原因ではないだろうかと感じる(笑)
アドリブが下手
プロのギタリストである以上、アドリブでも良いフレーズが弾けるべきである。ライブ中に弦が切れたり、他のメンバーの機材トラブルなどが発生した時にはアドリブで演奏する場面も発生する。
しかし、ヘタウマギタリストはアドリブが下手な時がある。手癖に頼ったワンパターンのアドリブしか弾けなかったり、起承転結のはっきりしないような構成でソロを取ってしまったりする。また、アドリブ中に音を外してしまうこともある。
例:リッチー・ブラックモア(Ritchie Blackmore)
リッチーブラックモアをヘタウマと言っていいのか迷ったが例としてあげさせていただく。リッチーはギターソロをアドリブで演奏する時に、感情のままに演奏しているのでは無いかと私は感じる。そのため、調子が良い時には神がかったソロを弾くが、調子が悪いときには音が外れているソロが目立つ。
チョーキングの音程がずれている
チョーキングとはギターのテクニックの一つで、弦を引っ張って音程を上げる奏法である。ギターを始めてから真面目に練習してきたのであれば誰でも正しい音程のチョーキングができるはずだ。しかし、ヘタウマギタリストの中には、チョーキングの音程が甘く、ずれている人がいるのである。
例:ブライアン・メイ(Brian May)
ブライアン・メイはヘタウマではなく、上手いギタリストだと個人的に感じている。しかし、チョーキングのピッチが少しだけ高い。原因はレッド・スペシャルのフレットの打ち方がズレているのか、ブライアン・メイ自身がピッチを高く弾いているのか疑問に思っている。
ミスタッチが多い
ヘタウマの種類の1つに「ミスタッチが多い」があげられる。プロのギタリストとしてギターを真面目に練習してきたのであれば、本来ミスタッチなんてあまりしないはずだ。アマチュアギタリストでさえミスタッチを全くせずに演奏できる人間はごまんといる。
しかし、ヘタウマギタリストの中にはライブでギターを弾いている時にミスタッチが目立つことが多い人がいる。
例:ジョー・ペリー、ジミー・ペイジ
ヘタウマが人の心に響く理由
ここまでヘタの種類を紹介してきた。では、なぜヘタなのに人々の心に響くのか?
ヘタウマギタリストが人々の心に響く理由は
- 「ヘタ」が個性になっている
- 人間味ある演奏
- 音楽的に、速さは重要ではない
- 曲作りの才能がすごい
- パフォーマンスがロックでかっこいい
の5つだと考える。
「ヘタ」が個性になっている
ヘタウマが人の心に響く理由の1つに「『ヘタ』が個性になっている」があげられる。先程あげた「ヘタ」が唯一無二の個性として受け入れられ人々を魅了しているのだ。仮にも完璧なリズム、テンポで演奏していたらそれは機械が演奏しているのと一緒になってしまう。また、他のギタリストとの差別化ができない。
先程紹介したジミー・ペイジの左手と右手のタイミングが合ってない演奏も「ロックギタリスト」という観点で見たら個性的でかっこよく感じる。「ヘタ」があることで、そのギタリスト独特の雰囲気や個性が生まれる。そして「ヘタ」が個性として受け入れられた時、人々の心に響くのだ。
人間味ある演奏
ヘタウマが人の心に響く理由の1つに「人間味ある演奏」があげられる。ここで言う人間味とは、リズムのズレやミスなどをしてしまうことである。機械的ではない、リズムのズレなど人間味があることでむしろ人々は安心して聴けるのではないだろうか。
仮にも完璧な演奏を聴きたいのであれば機械に演奏させれば良いのだが、現実には人間が演奏した楽曲の方が人々に響いていることは間違いない。人間の演奏にしかない暖かさというものがあるのではないかと感じる。
音楽的に速さは重要ではない
音楽的に速さは重要ではない。世の中で何百万枚もヒットしている楽曲の大半には速弾きが含まれていない。つまり楽曲がヒットするかしないかに速弾きは全く関係ないのである。
また、そもそも楽曲にギターソロが無いことだってある。バンドでのギターの役割として重要なのはバッキング(伴奏)であり、楽曲のうち8割以上はバッキングが締めているからだ。ギターソロは残り2割あれば多い方である。したがって、いくら速弾きが上手くても意味がない場面が多いのだ。
もちろん、クラシックやジャズなど速弾きがほぼ必須に近いジャンルもある。しかし、ロックバンドで自分たちが作曲した楽曲を演奏するのであれば特に速弾きができなくても問題ない。
曲作りの才能がすごい
ギターの演奏テクニックは乏しいが、名曲をたくさん作曲できる能力や名リフをたくさん生み出しているギタリストがいる。上手な演奏ができなかったとしても、楽曲で人々の心を動かせるのであればそれは魅力的なギタリストであると言える。
ジミー・ペイジは作曲や編曲の才能が他のギタリストと比較して秀でている。「移民の歌(Immigrant Song)」のような一度聴いたら忘れないようなリフを生み出したり、「天国への階段(Stairway to Heaven)」のように完璧に編曲された楽曲を作った。
また、ジョー・ペリーは「お説教(Walk This Way)」や「イート・ザ・リッチ(Eat the Rich )」のようなかっこいいリフを何個も生み出している。
パフォーマンスがロックでかっこいい
ロックバンドにおいて「かっこよさ」というのはとても重要である。ステージ上でのかっこいいパフォーマンスを見て憧れを抱く人は多いはずだ。ジミー・ペイジやスラッシュに憧れてレスポールを膝の位置で弾いた事がある、ジョニー・ラモーン(Johnny Ramone)のように頑なにダウンピッキングでパワーコードを弾いたことがある人はいるだろう。
また、パフォーマンスとしてステージ上を走り回ったり踊りながらギターを弾いたこともあるはずだ。ロックバンドのライブでは完璧な演奏よりもかっこいいパフォーマンスの方が重要なのである。したがって、リズムがズレるやテンポが走る、ミスピッキングなんてかっこいいパフォーマンスの前では気にならないのである。
ヘタウマを支える相方の存在
ここまで、ヘタウマギタリストにフォーカスを当ててきたが、ヘタウマギタリストが活躍する上で欠かせない相方の存在も紹介したい。
ギタリストが2人いるバンドでギターを弾くヘタウマギタリストの相方は、バッキングが上手いギタリストであることが多い。例えば、エアロスミスのブラッド・ウィットフォード(Brad Whitford)、メタリカ(Metallica)のジェームズ・ヘットフィールド(James Hetfield)などバッキングもソロも上手である。
そんな相方がいることで、バンド内の演奏のバランスが取れると共に、ヘタウマギタリストは自由に自分の個性を発揮した演奏ができる。
上手いギタリストは響かないのか?
上手いギタリストの中には、演奏が速弾きによる音の羅列となってしまいがちな人が多数いる。例えば、アンジェロラッシュでお馴染みのマイケル・アンジェロ(Michael Angelo)は私からすると音の羅列にしか聴こえない時がある。もちろん良いフレーズを弾いてはいるのですがそこまで魅力を感じない。
もちろん、速弾き中心の演奏をしているギタリストはかっこいいとは思うが、聴いていて胃もたれしてしまう。そもそも、人間がフレーズとして聴き取れる速さには限度がある。
それ以上の速さを弾いたところでそれは単なる自己満足にしかならない。下記のギタリスト、チアゴ・デラ・ヴェガ(Tiago Della Vega)は元速弾きギネス保持者だ。ニコライ・リムスキー=コルサコフの「熊蜂の飛行」を演奏しているのだが、750BPMの演奏は正直楽曲として聴き取れない。
もちろん、上手いギタリストの中にも魅力的な人はたくさんいる。松原正樹(まつばら まさき)や今剛(こん つよし)といった日本のスタジオミュージシャンの大御所、エリック・ジョンソン(Eric Johnson)などは速弾きも上手な上に心に響くフレーズを弾く。
おわりに
これから先も、ヘタウマギタリストが人々を魅了していくことは間違いないだろう。私自身ヘタウマギタリストに魅力を感じているため今後も彼らの演奏を参考にコピーしていく。
仮に、機械がギタリストの代わりを担って演奏する将来が来たとしても、ヘタウマギタリストが持つ「個性・雰囲気」は再現できないだろう。つまり、ヘタウマギタリストは今後もいなくなることは無いのではないかと思う。
また、ここまで記事を書いといてはなんだが、正直なところどんな演奏も完璧にこなすギタリストの方が少ないと言える。ギタリストごとに得意な演奏、不得意な演奏が存在する。その中で、得意を極めて個性を発揮できる人間が一流ギタリストとして人々から評価されていくからだ。
今後は、「ヘタウマボーカリスト」や「ヘタウマベーシスト」、「ヘタウマドラマー」もいると考えられるため、それらを取り上げた記事も書こうと考えている。
ライター:モリダイキ
横浜生まれ、横浜育ち。ギターとお酒が大好きなエンジニアです。好きな音楽は60s-80sのロック、歌謡曲、アイドルソングなど。
※この記事は、以前筆者が運営していた音楽サイト「バンド部ねっと」から移行した記事となります。