アルバム紹介・解説|クイーンのラスト作ともいうべき『メイド・イン・ヘヴン』に“天国”からフレディ・マーキュリーが降臨!

音楽レビュー
クイーン15th『メイド・イン・ヘヴン』ジャケット

フレディ・マーキュリー死後4年後の1995年にリリースされたクイーンの条件付きでのラスト・アルバム『メイド・イン・ヘヴン』は、フレディの生前の実質的ラスト作となった1991年リリースの『インニュエンドウ』の制作直後に、スイス・モントルーのクイーンが所有するスタジオで行われた4週間のセッションのときに録音された数曲分の曲の断片を中心に、ブライアン・メイが中心となり音作りがなされ、アルバムとして仕上げた作品である。

その他にブライアン、ジョン・ディーコン、そしてロジャー・テイラーのソロ作品でフレディがリード・ヴォーカルをとっている作品やフレディのソロ作品を再録音し直したものが収録されている。

『メイド・イン・ヘヴン』は全世界で2000万枚以上売り上げたクイーンのスタジオ・アルバムの中で最も売れている作品でもある。

Queen – Made In Heaven|各曲解説

アルバム基本情報

リリース日時 1995年11月6日(英国)
ジャンル ハードロック
収録時間 70分21秒(CD)
レーベル パーラフォン

イッツ・ア・ビューティフル・デイ – It’s a Beautiful Day(フレディ・マーキュリー)

アルバム『ザ・ゲーム』が再発された時にボーナストラックとして1980年4月収録とされるフレディのピアノの弾き語りとしてこの曲が収録されている。それは1分半ほどの長さであったが、『メイド・イン・ヘヴン』収録時にはこのときの音源に楽器演奏を追加するなどして2分半ほどの楽曲に仕上げられている。

どこか夜明けを思わせるキーボード、もしくはシンセサイザーの静かな演奏から天へと駆け上るような旋律の演奏からフレディが「It’s a Beautiful day」と歌うところは鳥肌が立つほどに素晴らしく、フレディの伸びやかな歌声に聞き惚れてしまう。

メイド・イン・ヘヴン – Made In Heaven(フレディ・マーキュリー)

フレディのソロ・アルバム『Mr.バッド・ガイ』(1985年)に収録されていた楽曲で、それをクイーンのメンバーが演奏し直して収録したものである。1985年といえば、クイーンのメンバーの仲が最悪の時である。フレディはソロ・アルバムの制作時、クイーンのメンバーの凄さを痛感する。皮肉なことにフレディの死後にクイーンのメンバーの演奏で「メイド・イン・ヘヴン」が甦る。

大変ドラマチックなナンバーで、やはり、フレディのヴォーカルはクイーンのメンバーの演奏でこそしっくりとくる。このタイトル曲は、ブライアン・メイのギターを始め、クイーンの渾身の演奏で、いかにフレディのヴォーカルが生きるかを考え抜かれた演奏が凄みすら漂う。

レット・ミー・リヴ – Let Me Live(クイーン)

アルバム『ザ・ワークス』制作時に行われたロッド・スチュワートとのセッションでのナンバーである。曲調はゴスペル調で、生きていることに対する”神への祈り”と”神への感謝”がクイーンのメンバーがそれぞれヴォーカルをリレーして歌われている。

ロッド・スチュワートとのセッションだからこそ、なお一層フレディのヴォーカルの凄さが際立ち、その華があり、唯一無二のヴォーカルは、フレディが亡くなっても永遠の残ると思わせるほどに巧みなのである。

マザー・ラヴ – Mother Love(ブライアン・メイ/フレディ・マーキュリー)

フレディの生前最後のボーカル・トラックといわれている。フレディは最後力尽き、最終コーラスまで録りきることができなかったので、最終コーラスはブライアンが歌っている。

死が目前に迫っているとは全く思えない力強く伸びやかな歌声をフレディは聴かせているが、しかし、椿の花がポトリと落ちるように力尽きたフレディの絶唱は心にさざ波を立て感動を呼ばずにはいられない。

マイ・ライフ・ハズ・ビーン・セイヴド – My Life Has Been Saved(ジョン・ディーコン)

アルバム『ザ・ミラクル』からシングル・カットされた「スキャンダル」のカップリング曲である。『メイド・イン・ヘヴン』収録に当たり新たにアレンジが施されている。

ポップな味わいのジョン・ディーコンならではの手際のいい曲作りの特徴がよく出たナンバーで、リード・ヴォーカルのフレディはポップでありながらも情感たっぷりに歌い上げている。

ボーン・トゥ・ラヴ・ユー – I Was Born to Love You(フレディ・マーキュリー)

フレディのソロ・アルバム『Mr.バッド・ガイ』からのナンバーで、演奏はクイーンの面々である。このナンバーは多分、誰もが一度はCMなどで聴いたことがあるナンバーでとても有名な曲である。

フレディの馥郁たる香り漂う芳醇なヴォーカルが堪能できる名曲で、”愛”を歌うフレディのヴォーカルのなんと表情豊かか驚嘆せざるを得ない。

ヘヴン・フォー・エヴリワン – Heaven for Everyone(ロジャー・テイラー)

ロジャーのソロ・プロジェクト・バンド、ザ・クロスのアルバム収録曲で、ゲスト・ヴォーカルとしてフレディを起用したテイクのヴォーカル部分を使用し、クイーンの面々が演奏し直し収録したナンバーである。

ポップなロック・ナンバーもフレディが歌うととても情感豊かな上質の、まるでフルーティーな赤ワインを飲んでいるようにフレディのヴォーカルに心地よく酔わされる。

トゥー・マッチ・ラヴ・ウィル・キル・ユー – Too Much Love Will Kill You(ブライアン・メイ)

フレディが亡くなった後すぐに開かれたフレディ・マーキュリー追悼コンサートで初披露された、クイーンのファンならば、涙なしには聴けないブライアンの手になるナンバーだ。

後にブライアンのソロ・アルバムにも収録されたこのナンバーは、『メイド・イン・ヘヴン』ではヴォーカルはフレディ・ヴァージョンで、非常に美しいバラード・ナンバーである。『メイド・イン・ヘヴン』の数あるナンバーでも畢生のナンバーで、フレディの魅力満載のナンバーだ。

ユー・ドント・フール・ミー – You Don’t Fool Me(クイーン)

プロデューサーのデイヴィッド・リチャーズがフレディ死後に残されたフレディのヴォーカルの断片などを組み合わせてひとつの曲として残された3人のクイーンのメンバーに示し、演奏やコーラスを付けたといわれているナンバーである。

アレンジは見事という他ないほどに完璧で、とてもこのナンバーが断片の寄せ集めとは思えないほどによくできていて、時にジャジーに、時にファンキーにビートの効いたナンバーに仕上げたプロデューサーとクイーンのメンバーの手腕は目を瞠るものがある。

ウインターズ・テイル – A Winter’s Tale(フレディ・マーキュリー)

スイス・モントルーのフレディの別荘で書かれた、フレディが単独で作曲した最後の曲がこのナンバーだ。多分、別荘の窓から見える冬景色に様々な思いを重ねながら、フレディの死に対して真摯に向き合ったさまが哀しみを誘うジャジーなナンバーである。とはいえ、ハレルヤをも彷彿とさせるこの潔いフレディの生への賛歌ともとれなくもないこのナンバーは清々しくさえある。

イッツ・ア・ビューティフル・デイ(リプライズ) – It’s a Beautiful Day(Reprise)(フレディ・マーキュリー)

第一曲目の別ヴァージョンのナンバーだ。やはり、フレディは不世出のヴォーカリストで、その絶対的な存在感には感服せざるを得ない。HIVにより夭逝してしまったフレディではあるが、その歌声は永遠に残って、時代を超えて聴かれてゆくだろう。

ジャケットには11曲目までしか記載がない。しかし、『メイド・イン・ヘヴン』には12,13曲目が存在する。

Yeah

これは12曲目の「イッツ・ア・ビューティフル・デイ(リプライズ)」の最後の4秒、フレディが”Yeah”と歌う箇所を分割したものである。

Track13

13曲目は全編インストゥルメンタルの22分以上に及ぶ大曲だ。プロデューサーの証言によれば、「イッツ・ア・ビューティフル・デイ」の編曲をしていて思いついたものということのようだ。

安寧な天国の様子を思い描いたようなナンバーで、キーボードが軸とした天国を強く意識していると思われるふんわりと空中を浮遊しているような演奏が続いてゆく。

まとめ

『メイド・イン・ヘヴン』はフレディの歌声が聞ける最後のスタジオ・アルバムである。『メイド・イン・ヘヴン』に収録されているナンバーの数々はCMに使用されるなどして多分、一度は聴いたことがあるナンバーの目白押しだ。

それだけ、フレディ・マーキュリーの死は世界中で衝撃を持って受け入れられ、今も尚、フレディ・マーキュリーの死が受け入れられないクイーンのファンも少なくないのかもしれない。

近年では映画「ボヘミアン・プソディ」の大ヒットを始め、今もクイーンの音楽は多くの人の心を掴んで離さないのだ。

ライター:積緋露雪

1964年生まれ。栃木県在住。自費出版で小説『審問官』シリーズを第三章まで出版。普段はフリーのライターとして活動中。嘗ての角川書店の音楽雑誌「CDで~た」の執筆・編集・企画を担当という経歴の持ち主。

※この記事は、以前筆者が運営していた音楽サイト「バンド部ねっと」から移行した記事となります。