アルバム紹介・解説『戦慄の王女(原題:QUEEN)』クイーン伝説の幕開けは酷評の嵐だった

音楽レビュー
戦慄の王女(原題:QUEEN)ジャケット

クイーン伝説の幕開けは地元英国の批評家には散々な評価だった~クイーンの処女作『戦慄の王女/QUEEN』

現在ロングラン公開中の映画「ボヘミアン・ラプソディ」では英国のスーパーロック・バンド、クイーンのヴォーカルで1991年に45歳の若さで夭逝したフレディ・マーキュリーに焦点を当てているが、その「自分に正直」な死までぶれなかったその生き方は感動の嵐を呼んでいる。

今となってはクイーンはスーパーロック・バンドとして不動の地位を築いていて、数々の名曲でも知られるが、そのクイーンもデビュー当時は地元英国の批評家には散々な書きようだったのである。

クイーンの前身バンドのスマイル(Smile)からヴォーカル兼ベースのティム・スタッフェル(Tim Staffell)が脱退し、フレディ・マーキュリーが加入したことにより、クイーンの第一歩が始まっている。

クイーンがクイーンと名乗り始めたのは1970年7月12日のライヴからであった。その後、ベーシストの脱退加入を繰り返したが、オーディションで加入したジョン・ディーコンにより、クイーンの4人のメンバーが固定した。

クイーンのメンバー

フレディ・マーキュリー(Freddie Mercury)

生年月日 1946年9月5日。エイズにより1991年11月4日になくなる。享年45。
出身 ザンジバル保護国ザンジバルシティストーン・タウン
担当 リード・ヴォーカル、ピアノ

ブライアン・メイ(Brian May)

生年月日 1947年7月19日
出身 イングランド・ミドルセックスハンプトン
担当 ギター

ジョン・ディーコン(John Deacon)

生年月日 1951年8月19日
出身 イングランド・レスターシャーオードビー
担当 ベース

ロジャー・テイラー(Roger Taylor)

生年月日 1949年7月26日
出身 イングランド・ノーフォーク
担当 ドラムス

なお、この4人のメンバーはピアノ等の楽器も弾け、また、その美声はコーラスでたっぷりと堪能できる。つまり、クイーンの4人のメンバーは万能型の才能の持ち主の集団だったのである。

Queen – Queen|各曲解説

アルバム基本情報

リリース日時 1973年7月13日(英国)
ジャンル ハードロック
収録時間 39分09秒
レーベル EMI

本作『戦慄の王女(原題:Queen)』のリリースは1973年。リリース直後の地元英国の評論家の評価は、その楽曲の構成の複雑さやエフェクトをふんだんに用いられたことから酷評を受ける。

クイーンのメンバー自身もこのデビュー・アルバム『戦慄の王女/QUEEN』に対しては否定的な評価をしている。しかし、本当のところはどうなのか。

それでは『戦慄の王女/QUEEN』を聴いていこう。

炎のロックンロール – Keep Yourself Alive(May)

アルバム『戦慄の王女/QUEEN』に先行して発売されたシングル曲でもある。この曲では、ブライアン・メイの疾走感たっぷりのギターで幕を開けるが、このギター・サウンドはその後の世界を熱狂されるクイーン・サウンドが既に確立されていたことを裏付けているほどに堂に入っている。

さて、その後、ブライアン・メイのギターを中心としたバンド演奏とフレディ・マーキュリーのヴォーカルのせめぎ合いが始まる。この緊張感がクイーン・サウンドの肝であり、魅力なのだ。

もたれ合いやなれ合いがそのサウンドにないので、楽曲はその後に確立するどこまでも壮大な展開を予感させるに相応しいクイーン・サウンドの雛形を形作っている。

ドゥーイング・オール・ライト – Doing All Right(May,Staffell)

前身バンド、スマイル時代にブライアン・メイが作った楽曲で、唯一スマイル時代の楽曲がクイーンとして発表された作品でもある。

この楽曲はフレディ・マーキュリーのピアノとその美声が際立つ美しいバラードで、時に妙味を見せるブライアン・メイのギターも光る。曲調は複雑な構成をしていて、また、クイーンならではの美しいコーラスも聴きもの。

この曲を聴くと、クイーンは既にスマイル時代にそのベースは完成していて、後は、新たに加わったフレディ・マーキュリーの天性の才能が開花するのを待つだけの、明るい未来が約束されていた類い希な才能の塊のバンドだったことが分かる。

グレイト・キング・ラット – Great King Rat(Mercury)

プログレッシヴ・ロックの影響が感じられる一曲。まず、ブライアン・メイのギターで静寂を切り裂き、そのギター・サウンドは何やら壮麗な楽曲が始まりを告げたかのような効果を生む。

フレディ・マーキュリーの楽曲の構成力はこの一曲を聴けば分かると思うが、クラシックの要素をふんだんに盛り込んだ曲調は、時に劇的な展開を見せ、これまでのロック・バンドにはなかったクイーンならではの独自のサウンドを作り出している。

ビートルズでさえ到達できなかったクラシックとロックの融合をフレディ・マーキュリーはいとも簡単に成し遂げている楽曲ともいえる秀作。

マイ・フェアリー・キング – My Fairy King(Mercury)

この楽曲もフレディ・マーキュリーの手によるもの。ブライアン・メイのギターを効果的に配して、フレディ・マーキュリーの美声と美しいコーラスが複雑に絡み合いながら、クイーンならではの一筋縄では曲が展開しない複雑な曲調を4人のメンバーが見事な手捌きで料理して見せている。

それにしてもフレディ・マーキュリーの曲作りの才能は特筆すべきほどに優れていて、この曲にもクイーン・サウンドの原点が見える。

ライアー – Liar(Mercury)

この楽曲もフレディ・マーキュリーの手によるもの。アメリカでは残念なことに3分ほどに短縮されてシングルカットされた楽曲でもある。

フレディ・マーキュリーはこの楽曲で、既にロックの壁を軽々と飛び越えて、オーケストラ作品を作曲しているのでないかと思わせるほどに、その構成は複雑にして緻密で、それに応えるブライアン・メイのギター・オーケストレーションは素晴らしいの一言である。

まさに、”ロック・オペラ”という呼び名が相応しい楽曲で、クイーンの魅力が凝縮した一曲である。こうしてフレディ・マーキュリーを始め、クイーンの面々は着実にスーパーバンドへの階段を上っていったのである。

ザ・ナイト・カムズ・ダウン – The Night Comes Down(May)

ブライアン・メイの手になる一曲。ギター・サウンドを前面に押し出した楽曲で、ブライアン・メイの超絶技巧のギターが光る作品で、フレディ・マーキュリーの美声もさることながら、クイーン・サウンドを特徴付けるコーラスが光る楽曲に仕上がっている。

この楽曲は、ブライアン・メイの才能の片鱗が垣間見える楽曲で、ブライアン・メイもフレディ・マーキュリーに劣らない作曲の才能の持ち主であることを証明しているほどに、曲調は複雑にして緻密に構成されていて、時に劇的に展開するこの楽曲は美しいの一言である。

モダン・タイムス・ロックン・ロール – Modern Times Rock’n Roll(Taylor)

ロジャー・テイラーの手になる一曲で、リード・ヴォーカルもロジャー・テイラーが務めている。ストレートなロックンロール・ナンバーで、フレディ・マーキュリーやブライアン・メイとはひと味違った彩りを『戦慄の王女/QUEEN』に加えていて、クイーンの奥行きの深さを感じさせるに十分な一曲である。

クイーンというバンドは4人のメンバーが4人とも類い希な才能の持ち主で、4人ともが万能型のアーティスト集団である。その集団がクイーンというバンドで、この後、4人のメンバーの才能はそれぞれの形で開花して行き、壮大無比なクイーン・サウンドへと結晶して行くことになる。

サン・アンド・ドーター – Son and Daughter(May)

ブライアン・メイの手になる作品。オーソドックスなロック・ナンバーで、ギターを軸にブルージーなロック・サウンドをバックにフレディ・マーキュリーのヴォーカルが縦横無尽に暴れ回るといった作風である。

しかし、そこはクイーン、美しいコーラスを盛り込んだりしながら、クイーンならではの味付けが存分になされていて、泥臭いブルージーなナンバーでありながらも澄明さが表れるという何とも不思議な味わいのロック・ナンバーである。

ジーザス – Jesus(Mercury)

フレディ・マーキュリーの手による凝りに凝った作品。

フレディ・マーキュリーは曲作りにおいてロックというジャンルに収まりきれないものを直截的に押し出して見せて、そのあふれる才能を惜しみなく注ぎ、とても華麗にして壮大な展開を見せる楽曲を作り上げるが、曲作りでのオーケストレーションが実に優れている。

この楽曲もそのフレディ・マーキュリーの才能が存分に発揮されたものとなっていて、フレディ・マーキュリーがこのような曲作りが出来たクイーンというバンドは優れて個性的なロック・バンドといえ、メンバー4人の切磋琢磨の末にこの後、世界中を魅了することになるクイーン・サウンドが既に萌芽しているのがこの楽曲である。

輝ける7つの海(インストゥメンタル) – Seven Seas of Rhye…(Mercury)

このインストゥメンタル曲は次作『QUEENⅡ』に収録される楽曲のショート・インストゥルメンタル・バージョンである。つまり、予告編ともいえる楽曲なのである。

この楽曲が予感させる世界は、更に進化したクイーンというバンドが生み出すサウンドが唯一無比のサウンドを構築しているのでないかという予感なのである。

まとめ

クイーンのデビュー・アルバム『戦慄の王女/QUEEN』は、英国の評論家には酷評され、また、メンバーもこの『戦慄の王女/QUEEN』が完成した後、しばらく塩漬けにされていたこともあり、”旬”を逃したと否定的な評価をしているが、しかし、この作品はここ日本では大ヒットした。

クイーンを最初に見出したのは日本の女性陣で、クイーンのメンバーも大の親日家なのである。後に、クイーンは日本語の歌詞の楽曲を発表したのは、こうした経緯があるのである。

しかしながら、『戦慄の王女/QUEEN』に対して否定的な意見ばかりが目立つが、このアルバムをよく聴くと、後にスーパーロック・バンドになるクイーンのその片鱗が数多く見られ、特にフレディ・マーキュリーとブライアン・メイのコンポーザーとしての才能は素晴らしいの一言である。

デビュー・アルバムにしてのこの完成度は、クイーンがデビュー当時には既にクイーン・サウンドの下地を完成させていたことを示している証拠でもある。

つまり、『戦慄の王女/QUEEN』は、その後、世界的なバンドへと成長するクイーンのその原点としての貴重な記録としても聴くに値する素晴らしい作品であることを物語っている。

ライター:積緋露雪

1964年生まれ。栃木県在住。自費出版で小説『審問官』シリーズを第三章まで出版。普段はフリーのライターとして活動中。嘗ての角川書店の音楽雑誌「CDで~た」の執筆・編集・企画を担当という経歴の持ち主。

※この記事は、以前筆者が運営していた音楽サイト「バンド部ねっと」から移行した記事となります。