シガー・ロスのおすすめアルバム!1stから最新作までの名盤をそれぞれ解説

音楽レビュー
シガー・ロス2013年ライブ写真

『シガー・ロス』と聴いて、どんなイメージが思い浮かびますか?

荘厳?耽美?それとも眠くなる?もちろん、決してそれらのイメージが間違っているわけではありません。けれど、彼らの楽曲は多くの人が思うよりもずっとさまざまな魅力に溢れています。

今回は、「名前は聞いたことあるけど正直とっつきにくい」「聴いてみたいけどどのアルバムから聴くべきか迷っている」「1枚だけは聴いたことがある」といったシガー・ロス初心者を対象に、1stアルバムから最新作までの名盤についてそれぞれ解説していきます。

シガー・ロス(Sigur Ros)〜アイスランドを代表するポストロック/アンビエント系バンド

シガー・ロスは北欧アイスランド出身のポストロック・アンビエント系バンドです。結成時のメンバーはボーカル&ギター担当のヨンシー・バーギッソン、ベース担当のゲオルグ・ホルム、ドラム担当のアウグスト・グナルソンの3人で、1994年に結成されました。

1997年のデビュー以後、キーボードプレイヤーの加入(後に脱退)やドラマーの交代など度々メンバーチェンジを繰り返しつつも、2019年現在も活動中です。

バンド名の由来は、バンドを結成したその日にボーカルのヨンシーの妹が生まれたため、その彼女の名前シガーロス(Sigurrós)から取られました。ちなみに、そのSigurrósはアイスランド語で「勝利のバラ」を意味しています。

1997年発表の「Von(邦題:希望)」でデビューを果たし、1999年の二作目「アゲイティス・ビリュン」で世界的に成功を収める。三作目の「()」ではグラミー賞にノミネートされるなど、着実にキャリアを築き上げてきました。

ここ日本での初来日は2005年7月に開催されたフジロックフェスティバルで、1日目と3日目に出演。その圧巻のパフォーマンスで好評を得た彼らは、その後も度々単独の来日公演を行っています。

シガー・ロスのスタジオアルバム解説

シガー・ロスは前述の通り97年発表の「Von」でデビューを果たした後は、2019年5月現在、7枚のスタジオ録音盤を発表しています。まずは、それぞれのアルバムの特徴をざっくりと解説していきます。

Von

記念すべきシガー・ロスの1stアルバム。しかし、すべての楽曲において妙な実験を重ねに重ねたような問題作です。初心者におすすめできる作品ではありません。それでも、「シガー・ロスが好きでたまらない」「これまで知らなかった彼らの一面を知りたい」そして「怖いもの見たさ(聴きたさ?)で……」といった人はぜひ一度聴いてみてください。

Agaetis byrjun

各国で数々の賞を受賞した2ndアルバム。彼らの魅力のひとつである「浮遊感」は全体で共通していながら、美しく穏やかに、不安げに、壮大に、時には鋭く、そして激しく…。どれひとつとして同じような楽曲がありません。

さまざまな印象の楽曲が詰まった、非常にバランスの良い1枚です。丸裸のシガー・ロスを色々な角度で、しかし真っ向から聴きこんでみたい人におすすめ。

また、シガー・ロスの原点とも感じられる楽曲ばかりが並んでいるため、「ほかのアルバムは聴いたことがある」という人にとっても、きっと1曲はお気に入りが見つかるはず。彼らに少しでも興味がある人すべてに聴いてほしい1枚です。

()

アルバムにも楽曲にも名前のつかない1枚。ボーカルであるヨンシーの声もほとんどが楽器のように機能しており、言葉から離れ純粋な音楽のみで鳴らされているようにも感じられる、非常にストイックな作品です。

ややとっつきにくい印象は残るものの、純粋にシガー・ロスのサウンドにのみ向き合ってみたいという人におすすめ。ひたすらに音楽の力を感じることのできる1枚です。

Takk…

全編通して強い喜びのエネルギーに満ち溢れた1枚。比較的耳なじみのよい楽曲が多く、初心者には非常におすすめの作品です。癒しや美しさを求めて聴くこともできますが、聴き手の前向きな力を内から引きずり出すような圧倒的なパワーを持ち合わせています。

ただし、全編通して聴くとちょっとだけ疲れるかも。そのくらい強いエネルギーを持った1枚です。

Med Sud i Eyrum Vid Spilum Endalaust

発表されているアルバムの中では最も親しみやすく、開放的な1枚です。色とりどりで鮮やかな楽曲が多く、明るく楽しくリズミカルな楽曲が好きな人におすすめ。これまでにはなかった、まるでアートワークのように丸裸で駆け抜けたくなるようなポップな楽曲も。

後半は穏やかなサウンドへと変化しますが、鬱々とした印象はほとんどありません。春の陽気のような、あるいは幸せなうたた寝のような、あたたかく開放的な響きの楽曲が多いことも特徴です。

Valtari

シガー・ロス至上、最もアンビエントな音楽に振り切った作品。アンビエントとは「強いメッセージや意図がなく、空気のように溶け込む静かな音楽」といった意味です。

美しく穏やかな曲ばかりが並び、ヒーリング・ミュージックとしても聴くことができる1枚。とにかく綺麗な曲が聴きたい、癒されたいという人におすすめ。

ただし、中には穏やかでも歪で、形にならない不安のような感情を感じさせる1曲も。しかし、それでも間違いなく美しいと思わせてくれる楽曲ばかりが詰まったアルバムです。

Kverkur

シガー・ロスがロックバンドであることを強く実感することができる、非常に情熱的なサウンドが特徴的な1枚。美しさや穏やかさではなく、カッコいいシガー・ロスを知りたい人には特におすすめです。

冒頭からの圧倒的な音の応酬は身震いがするほどにクール。しかし、冷たく鋭利なサウンドの中にはちらちらと彼らの燃えるような情熱が見え隠れしています。熱くロックなサウンドと彼らの冷たい美しさ、と言うと一見矛盾しているようですが、それらを見事に融合させ、昇華させた作品。

「シガー・ロスは眠くなる」「アンビエントに興味はない」と感じている人にもぜひ聴いてもらいたい1枚です。

結局、おすすめは…

ここまでシガー・ロスのアルバムについて解説してきましたが、まったくの初心者の場合は比較的聴きやすい「Takk…」「Med Sud i Eyrum Vid Spilum Endalaust」を、少しだけ知っているけどもっと魅力を知りたい!という人にはロックな「Kverkur」、バランスの良い「Agaetis byrjun」をおすすめします。

おわりに

私たちが想像するよりもはるかに多くの引き出しを持ち、そしてその引き出しを今もなお増やし続けているシガー・ロス。各アルバムの特徴からもわかるように、ただ美しいだけではない、さまざまな音楽を生み出してきました。

ロックを聴きたい人も、癒されたい人も、前を向きたい人も、そして時にはゆらゆらと浮遊していたい人も。あなたのお気に入りの1枚をぜひ見つけてくださいね。


※この記事は、以前筆者が運営していた音楽サイト「バンド部ねっと」から移行した記事となります。